レッドが帰ってきた。

3年。

あいつはポケギアを持っていないから、連絡する手段もなく。
タケシやカスミ、いろんなジムのリーダーたちにきいたけど、レッドの居場所はわからなかった。
もちろん俺だって、トキワジムの仕事の合間を見つけては、ピジョットに乗って各地を飛びまわった。


それでも。


べつに俺はレッドに会いたかったわけじゃなくて、あいつのおばさんや、うちのじいさん、ねえちゃん、四天王やカントーのジムリーダー、みんなが心配してて、


…俺も、ずっと気になって。


最初は、みんなが心配してるから、そう自分に言い訳してあいつを探してた。
でも、俺は、必死で。
俺だって自分の気持ちに気付くくらいできるような歳になった。

3年間ってのは、それだけの年月だった。












おばさんにきいた話だが、レッドは何事もなかったかのように、リザードンでマサラに降り立って、当たり前のように家に帰ってきたらしい。
もちろん肩には、黄色の相棒。
あいつがここに帰ってくるのは、そりゃ当たり前なんだけど、もっとこう……相変わらず、世界と違う時間を生きてるみたいだ。

おばさんに連絡をもらってから俺がトキワジムを飛び出してマサラに着いたときには、おばさんは泣きながらレッドを抱きしめてるわ、じいさんはそんななかで説教をたれてるわ、マサラじゅうのみんながあいつのまわりを取り囲んでいた。
俺はその光景を人垣の外から、なんだかほほえましくも、ものかなしくもなりながら、ただ見ているだけだった。
なんて声をかけたらいいかがわからなかった。

(……俺らしくもない)





結局その日は、おばさんとレッドをうちに招いて、みんなで晩飯を食った。
旅に出る前は当たり前だった光景が懐かしかった。
俺たちは特に話すわけでもなく、賑やかに夜はふけた。
そして、家はとなりだというのに、おばさんはねえちゃんのベッド、レッドは俺のベッドで眠りについている。
じいさんとねえちゃんはまた別の部屋。
さっきとは打って変わって、静まり返った家。

俺は自分の部屋にそっと入った。
しんとした部屋には、レッドの寝息だけが響く。
枕元に腰かけて、月明かりに照らされたレッドの寝顔を見る。
こいつの顔をまじまじと見るのも随分と久しい。


髪、のびたな。

肌がしろい。

顔立ちが男っぽくなってきたな。

こいつのまつげってこんなに長かったっけ。


そして俺はレッドの左手をとり、耳にあてた。
弱くて今にも消え入りそうで。
それでもレッドのいきるおとが、きこえた。



「グリーン」


(え、)



びっくりして声のした方を見ると、レッドが薄く眼を開けて俺を見ていた。
レッドの眼の光彩は赤い。
漆黒のなか、月明かりに照らされて、ちらちらと赤が燃えた。


「なんでないてるの」


レッドは俺が耳にあてていた左手で、俺の目元をぬぐった。
目頭のあたりがつんとして、レッドの指先は確かに濡れていた。
俺はまたびっくりして、なにか言おうと思ったけど、喉になにかが詰まっていた。
それでもなんとか、声を。




「おかえり」




ちゃんと届いただろうか、。