ハルさんへ!



だれもいない教室だ。そこに俺と名前もうろ覚えのおんな。外は雨が降っていて、ザアザアと窓をたたきつける。すっかり日は落ちていた。というかそもそも雨のせいで日は出ていなかったか。
目の前のそのこはもじもじと頬を赤らめながら上目遣いで俺を見やる。この雰囲気にはもう、慣れてしまった。

「グリーンくん、あの、ね」

意を決したように大きく息を吸って吐き出されるソプラノ。声はかわいいとおもう。

「わたし、ね。グリーンくんのことが…すき、なの」

ゆっくりと紡ぎだされた言葉は予想通りのものだった。だからこそ、俺の返答も決まっている。

「あのさ」
「…うん」
「俺、すきなひと、いるんだ」

できるだけ申し訳なさそうに。ごめんな、と言葉をつけたした。もう何度目だろうか、相手の傷ついたような顔をみるのは。俺がこうして上っ面の謝罪を述べるのは。
そのこは大きな目をいっぱいに開いて俺を見て、すっと床に視線を落とす。それで、そっか、とちいさく漏らす。ひとつ聞いていい、と俺に尋ねる。

「…すきなひとって、だれかな。よかったら聞きたいな」

顔はさらりと垂れた髪で隠れている。声は震えているようにおもう。

「…ねえちゃんのともだち」

俺は短くそれだけ言うとそのこは、ありがとう、と言って教室をでていった。ちくりと痛む心臓をおさえて、俺は机に腰かける。うそは言ってない。俺に歳の離れた姉がいることも学校のみんなは知っていて、その友人だと言えば年上のおんなを想像するだろう。こうして俺は回避を重ねて、重ねる。

がたりと音がした。

「おんなのこを泣かせちゃだめだって、おしえたよね?」

俺はうしろから聞こえた声にゆっくり振り向く。そこにはドアにもたれかかるレッドがいた。

「…レッド」
「学校では先生、でしょ」

間髪入れずに訂正されて、俺は心中で舌打ちする。

「盗み聞きとはたちがわりーな」
「たまたま通りがかっただけだよ」

レッドはそう言ってゆっくり歩み寄り、俺の正面へ腰かけた。向かい合うかたちになって俺は床へ視線を落とす。
こいつはねえちゃんの幼なじみだ。俺がうまれた小さな町にはこどもなんてほとんどいなくて、いつも俺と遊んでくれるのはレッドだった。昔の俺は、レッドのうしろをいつもついてまわって、こいつのすることはなんでも真似た。

いつからだろうか、そんなこども心が変わっていったのは。

「なんで」
「え?」
「なんでことわったの?」

つきあえばいいのに。グリーンはおんなのこにもてるでしょ。
レッドはそう言って俺の頬をするりと撫でる。目を細めて意地のわるい顔をする。こいつは俺のきもちをわかってながら、それでもこんなことを言う。
いやな、おとなだ。
おまえがそう言ったって、レッドは先生で俺は生徒だ。そういう立場を理解したうえでこの先に夢を見られるほど、俺はこどもじゃなくなっていた。
それでも。

顔がゆっくり近づいて、触れるだけのキスをする。

「だれかに見られたらどうするんだよ、せんせい」

息がかかるほどの近さで話す。なあ、レッド先生。生徒とこんなことしてるなんて、ばれたらまずいんじゃねえの。

「そんなの」

レッドはふっと笑う。俺の頬に両手をそえて、またくちびるを触れさせたまま言う。
どうでもいいよ。
ちゅうとリップ音がする。頭でそう考えていてもこの感触を甘んじて受け止める俺は、ほんとうに、こどもだ。
お互いに目は閉じない。レッドのあかい目にうつる自分を見る。なんて顔してるんだ、俺は。






国境


………
教師赤×生徒緑ということで、これはあの、生徒の緑は世間体を気にするだろうな、教師の赤さんはそんなの気にしないだろうなっておもって書きました。あとおんなのこを泣かせちゃだめだよって赤さんに言わせたかったです。そういう欲望のままに書かせていただきました!
これで大丈夫…かな…!?リクエストありがとうございました!ハルちゃんのみお持ち帰りなどご自由にどうぞっ^^













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