目が覚めればそこは、知らない天井だった。僕はパリッとしたシーツのベッドに横になっている。ベッドのまわりはカーテンで囲まれていて清潔な白がまぶしい。つんと薬品のにおいがした。どうやらここは保健室、らしい。からだを起こそうとすれば鈍痛が頭を刺激した。ずきずきと痛む頭をおさえる。なんだ、なんだっけ、なんで僕はここに。

「あ、レッド、目さめたか」

カーテンが開いて、顔をだしたのがグリーン先生だった。そしてその向こうに見えた景色はもうすっかり日が落ちていることにおどろいた。いったい今は何時なんだろう。

「先生、僕……」
「覚えてないのか?おまえ、頭にボールが直撃して気を失ったんだぜ」

先生はまだ横になったままの僕の髪を払って、側頭部あたりにやさしく手を置いた。体温がじんわりと伝わって痛みがやわらいだ気がした。それが心地よくて僕は目を細める。あたりまえだけれど先生はすぐにその手を離してしまって、こぶになってるし大丈夫だろと言った。ほんとうに束の間すぎる心地よさが名残惜しかった。それが顔にでてしまっていたのか、先生はふっとわらってもういちど、手を僕に。

「そんな顔すんなよ」

そう言って先生はまた頭を撫でてくれたので、僕はかあっと顔が熱くなるのを感じた。羞恥心というか、なんだ、なんなんだ、このきもちは。
僕はなんとか平常心を保とうと、先生に話をふることにした、のだけど。なんでだかうまく話せないのだった、そういえば。話題を探そうにももともと会話がうまくない僕はそこでいつもつまずいてしまっていた。なす術もなく僕は目を閉じて先生のやさしい掌をただ享受することにした。このひとはやさしい、先生、だ。

「ああ、親さんには連絡入れといたから」

頭を打ったから落ち着いてから帰らせるって。僕ははっとして今が何時かと先生に尋ねれば、ちょうど19時半をまわったところだと先生は言った。そんな時間、生徒はとっくに帰宅していて、先生だって。そういえば保健室の先生だっていないし、このひとはいつからここにいてくれたのだろう。ずっと僕についていてくれたのだろうか。いろいろ聞きたいことがあったのだけど、僕のくちから出てきたのは、ごめんなさいという一言だった。すると先生はちょっと怒った顔をして、

「ごめんなさい、じゃなくて、ありがとうだろ」

と言った。僕があわてて、ありがとうございましたと言うと先生はすぐにいつもの笑顔にもどったので、僕は安心してしまってつられてわらった。すると先生はちょっと驚いた顔をする。表情がくるくるかわっておもしろい。

「おまえ、わらったほうがかわいいじゃん」
「それ…僕がおんなのこだったらセクハラになるよ」

先生の言葉があまりに天然のたらしだったので思ったままに言えば、お互いに吹きだして、ふたりしてわらった。先生とまともに話したのはほんとうにこれが初めてで、それからさっきまでがうそのように先生と話せるようになっていた。



結局、球技大会は僕が抜けたことで準々決勝で負けてしまったこと、頭を打った僕のもとにすぐに駆け寄って保健室へ連れて行ってくれたのはグリーン先生だということをクラスメイトから聞いたのは次の日のことだった。











あふれてこぼれた