連れて行かれたのはちいさなロッジだった。 ここまでの道筋はおぼえていない。 まわりにはふかい緑が生い茂っていて、ひとの気配もない。 俺とレッドはずっと手をつないでいた。 ギィ、と軋んでドアをあける。 木のにおいがした。 ひんやりとした空気を肺いっぱいに吸いこむ。 レッドは、どうぞ、と言って俺を先になかに入れた。 あ、手が離れた。 ロッジのなかはまるでワンルームマンションのような設備が整っていた。 キッチンもあるし、ベッドも、シャワーもある。 冷蔵庫も、電子レンジもなんでも。 「ここ、どうしたんだ」 「前の旅で、山男さんに譲ってもらったんだ」 そのひとの顔はもう覚えてないけれど、山男をやめて釣り人になるからここは自由につかってくれって。 うそのような、ほんとうのような話に俺は頷くしかない。 「で、俺とどうするんだ、今日から」 一週間。 どうしてそんな期間で、どうしてこの場所で、どうして、俺。 聞きたいことはたくさんあった。 それでも一週間こいつといっしょなら、時間があるだろうと思った。 がちゃりと音がする。 レッドが後ろ手で、ロッジのドアの鍵をしめた音だった。 この小屋に窓はない。密室に、ふたりだけだ。 レッドはまた俺の手を引いて、ふたりでベッドに腰かける。 新しいシーツのようで、ひとが使っていた様子もない。 「なあ、レッド」 俺がもう一度たずねようとして、それは叶わなかった。 気づけばレッドの顔がすぐそこにあって、俺の声はレッドのくちびるに吸いこまれていた。 くちびるはすぐに離れて、俺は呆然とする。 男に、幼なじみに、ライバルに、キスをされるなんて思わなかった。 でも、いやな気分では、なかった。 レッドのくらい双眸に、赤い光彩がちかちかと混じる。 俺はそれから目が離せない。 手のうえに、そっともうひとつの手が重ねられた。 ひんやりしている、レッドの手。 指がゆっくり絡まって、きゅっとちからを入れられる。 「ねえ、グリーン」 いい?とだけ、レッドが言った。 それがなにを意味するのか、俺はすぐに察することができた。 それはつまり、キスよりもっと。 まともに考えればありえない。 ありえないはずだった。 でも俺は、まるで催眠術にでもかかったかのように、ゆっくりと頷いてしまっていた。 くちびるを重ねた。 最初は何度も、ついばむように、軽いキスをして。 おかしいと思った。 どうしてこんな、男どうしでキスをしなければならないのか。 でもそれ以上にきもちが昂ってしまっていた。 ベッドに腰かけたまま、向かい合ってキスをする。 片方の手は握ったままで、レッドのもう片方の手は俺の頬にそえられていた。 顔を固定されて、逃げることはできない。 逃げるつもりもなかったけれど。 キスはだんだんと深いものになっていく。 次にくちびるを食むように、甘噛みして、し返す。 すこし乾燥したレッドのくちびるを濡らすように。 レッドはゆっくりと舌をつかって、俺の歯列をなぞった。 ぞく、とからだが疼いて、息を求めてくちを開けたとき、レッドの舌が俺のなかへ割って入った。 俺が驚いて逃げようとすれば、レッドはうまく俺の舌を絡めとる。 舌で舌をつつかれて、なぞられる。 そうしているあいだにレッドは体重をかけて、支えられなくなった俺はゆっくりとベッドに押し倒された。 いつのまにか後頭部に手がまわっていて、よりふかくくちびるが繋がった。 あふれた唾液が、俺のくちの端からシーツに落ちて染みをつくった。 ちゅるっと音を立てて舌を吸われて、やっとくちびるが離れた。 このまま溺れてしまうかと、おもった。 はあ、はあ、とふたりの息づかいが響く。 まだ顔はちかくて、レッドの息が俺の顔にあたる。 息苦しくて、俺の視界は滲んでいた。 レッドはそんな俺を見て、ふっとわらって、かわいい、とつぶやいた。 なにがかわいい、だ。 おまえだって目が潤んで、頬が高揚してあかくなって。 そんな、おまえのほうが、よっぽど。 いまだにつないであるレッドの手を、俺はぎゅっと握った。 月曜日/水中のイブ |