あたたかい春の陽射しだ。
窓から差しこんで、まぶしい。
僕はぎゅっと目をつむった。

去年の秋くらいから、母さんはもう朝に起こしてくれなくなった。
いくら声をかけても毛布を剥いでも僕が起きないから、諦めたんだって。
ほんとうにまったく起こしてくれないものだから、それからは毎日いつも遅刻だった。
そんなふうに見放されると、逆になんだかまずい感じがして、今は毎朝ちゃんと自分で起きてる。たまに遅刻するけど。

でも、その「たまに」が今日だなんて。

母さんの声がきこえた。
レッド、いま何時だとおもってるの。
そう言われるのはほんとうにひさしぶりで、夢かとおもった。
けど、直後に毛布を奪われて目が覚めた。
いくら春とはいえ、まだ肌寒いなあ。
母さんが毛布を持って仁王立ちしてる。
ひさしぶりの光景を覚醒しきらない頭でぼんやり眺める。


「レッド、きいてる?今日は始業式でしょう。あと15分ではじまるんじゃないの?」


母さんの言葉を頭のなかでぐるぐると反芻した。


「……あ!」


理解するのに、すごく時間がかかった。
そういえば今日から僕の高校生活が2年目に突入するんだった。










「いってきます!」


食パンをくわえて家を飛びだした。
というか母さんもせっかく起こしてくれるなら、せめて間に合う時間に声をかけてくれればいいのに!
始業式にはどう考えても間に合わないけど、HRにはきっと間に合う。
僕はなにかの漫画で見たように、食パンをくわえて走る。
そこの角を曲がってずっとまっすぐ行けば学校だ。
漫画なら角を曲がったところでかわいい女の子とぶつかって…とかだけど、そんなベタな展開があるわけでもない。

そんなどうでもいいことを考えながら、僕はただ学校を目指して角を曲がろうとした、そのとき。
どん、とだれかにぶつかった。
同時にいてっと声を発する。
……なんてベタな。
ただベタじゃないのは、それがかわいいおんなのこじゃなくて、おとこだったことだ。
もう僕はめんどうになってしまって、そのまま尻もちをついていた。
朝からろくなことないよね。もう学校いくのもめんどうだよね。
すると、ふと目の前がかげる。
見れば、ぶつかった相手の方がすっとこちらに手を差し伸べていた。


「悪い、大丈夫か?」


スーツをぴしっと着こなしたかっこいいひとだった。
くせ毛なのか、つんつんとした髪の毛が日に透けて金色に光って見えた。
うっかり見とれてしまった僕は遅れて、すみませんとひとこと言って手をとった。
そのひとは僕を立たせると、急いでるからと言ってすぐに走り去ってしまった。
僕はただぼうっとしてしまって、学校から聞こえてきた、始業式の終了を告げるチャイムでやっと我に返った。








はじまりは、ただ