さて今日はハロウィンなわけだが。
正直に言って、俺はこのイベントに乗っかってレッドにいたずらしたい。
いつも通りならレッドにあれこれされて、不本意ながらいいように啼かされ、翌日は足腰立たなくされる。
それは勘弁、というか俺が主導権を握りたい。
…ちなみにこう考えてる時点で、気持ちで負けてることはわかってるぜ。


俺の左手にはチョコレート。
ハロウィンっぽくとりあえずはお菓子を持参。
そして右手には愛を、勇気を、根性を。
拳をつくって俺はレッドの部屋のドアをノックした。


「レッド、入るぞ」


ノックをしてもレッドはいつも返事をしない。
俺は一声かけてドアを開けると、ベッドに寝転がったレッドがちらりとこちらに視線をよこした。


「グリーン、こんにちは」


それでもあいさつだけはちゃんとするんだ、こいつは。
俺は、よう、と答えてベッドに腰かける。
そして時計で時刻を確認。
ちょうど3時、いわゆるおやつの時間だ。


「…おなかすいた」


…レッドの腹も、おやつの時間だ。
長年の付き合いと経験で、ここまでは計画どおり…!
そして次のステップ。


「レッド、今日はハロウィンだ。知ってたか?」


俺がそう問うと、レッドは心底興味なさそうに、どうでもいいとだけ言った。
この冷たいリアクションもシュミレーション済み…!

俺はまっすぐベッドに近づき、そのまま寝転んだレッドの顔の横に手をついた。
ぎし、とスプリングが軋む音。


「なあ、チョコレート食べるか?」


至近距離で目をあわせて言ってみる。
レッドは怯むことなくまっすぐ俺を見返した。
視線が絡み合う、が、ここにロマンスみたいなものは生まれていない。
もっと挑戦的で好戦的な、なにか。


「…なに考えてるの?」


レッドがちいさく問う。


「レッド」

「なに」


無言で見つめあう。
そして俺は意を決しておおきく息を吸った。



「お菓子あげるからいたずらさせてください!!!」



しんとした空気が流れる。
レッドはきょとんとしたあと、ぷっと吹きました。


「…いたずらさせてくださいって…はは、」

「てめっ」


ひとの勇気を笑いやがって…!
恨めしく睨んでいれば、ひとしきり笑ったレッドが目尻に溜まった涙を拭ってひとこと言った。

いいよ、と。

喜びと戸惑いにまみれながら、俺はとりあえず持っていたチョコレートをくちに含んで、そしてレッドにくちづけた。















おかしをちょうだい
ハッピーハロウィン!












ちゅ、くちゅ、と水音が響く。
チョコレートのあまさがのこるくちびるを、むさぼるように重ねあう。
舌が、からだが、あつい。

いつもは見上げているレッドの顔が今日は下にある。
それだけで支配欲がぞくぞくとめぐった。


「んっ…ん、ふ、」


つなげたくちびるの隙間から、息を求めて声がでる。
薄く目を開けてレッドを見れば、上気した頬と汗で張りついた前髪が。

(えっろ…)

堪らなくなってレッドのシャツのなかに手をしのばせようとしたそのとき。
どさっという音とともに、視界が反転した。
気づけば目の前には相変わらずレッドの顔、背景には天井。
……天井……?

お互いのくちを唾液の糸がつなぐ。
はあっとあつい息を吐きだして、レッドはそれはもう妖艶な笑顔を見せた。


「だめ、グリーンがかわいすぎて我慢できないや」


その笑顔にくらりと脳天をやられたあと、またいつも通り足腰立たされなくされたのだった。