ざくざくと音がした。
シロガネ山の洞窟のなか、吹きこんできた雪をふむ音。
時間はきっともう深夜だ。
まっ暗な洞窟のなかに月明かりが差しこんで、しんと静まりかえっている。
こんな時間に、だれが。

足音は、僕のすぐ近くでとまった。
僕は息をころして寝たふりを決めこむ。
目を閉じてまっ暗な視界がさらにかげった。
そしてさらりと前髪を払われる感触。
鼻をかすめたのは。


「……レッド」


ちいさく掠れた声が響いた。


(…グリーン)


冷えきった手が髪をすく。
いまだに僕は寝続けるふりをする。

グリーンはしずかに腰をおろして、しばらく僕の頭を撫でていた。
僕の体温がグリーンの手にうつって溶けあった。
グリーンの手はいつもやさしい。


「レッド」


グリーンがまたちいさく声を発した。
たぶん、ひとりごとだ。
僕は頭のなかで返事をする。


「レッド」


どうしたの。
こんな夜中に、なにかあったの。


「レッド、すき」


僕もグリーンがすきだよ。


「だいすき」


…だいすきだよ。


グリーンはそれだけつぶやいて立ち上がった。
そして影が近づいて、くちびるにやわらかい感触がした。
足音がだんだん遠のく音がする。
僕はすこしだけ目を開けた。

月明かりが、きれいだ。













月をたべる
きみは、どんな顔をしていたの