レッドさんがただの変態ストーカーです。
ご注意ください。










09:00

今日の僕の朝ははやい。なぜならグリーンが今日は朝から夜まで家にいないらしいからだ。きっとジムの仕事があるんだろう。僕はいつも通りに着替えて顔を洗って歯を磨いて、寝ぐせはそのままにお気に入りの帽子をかぶった。鏡の前できゅっと帽子の角度をなおす。完璧だ。



10:00

グリーンの家に向かおうとしたら、ちょうどグリーンが家から出ようとしているところだった。声をかけるとグリーンは驚いてこちらを見た。

「レッド!おまえにしてはやけに朝はえーな」
「おはよう」
「ああ、おはよう。で、どうしたんだ?」
「今日は夜まで帰ってこないんでしょ?だからせめてお見送りでも」

にこっと笑って言ってやると、グリーンはとてもうれしそうに笑った。そして僕を引き寄せてぎゅっと抱きしめる。

「おっまえ…かわいいところあるな…!」
「まあね」
「腹立つ!でもかわいい!」

さらに僕をぎゅーっと抱きしめてから、すこし離して頬に手をそえられた。至近距離で見つめあって、グリーンの顔がだんだん近づいてくる。グリーンにキスされるのはなんだ悔しいので、僕は右手をグリーンの後頭部に持っていき、ぐいっとこちらに引き寄せた。くちびるがガツンとぶつかってちょっと痛かったけど、気にせずグリーンのくちびるをわざと音を立てて吸い上げた。ちゅうっと音がして顔が離れる。するとグリーンは耳まで真っ赤な顔をしていた。

「グリーンかわいい」
「レッドおまっ…びっくりするだろ!」
「かわいいかわいい」
「うるせえっ」

怒ってしまった。ほんとのこと言っただけなのに。そんなところもかわいい。それよりほら、時間いいの?と聞けばグリーンはポケギアを見て、あっと声をあげた。

「行ってくる!」
「うん、いってらっしゃい」

僕がそう言うと、グリーンは僕をじっと見て黙りこんでしまった。それから、

「こういうの、いいな…」

としみじみと言った。グリーンがだんだんおっさんみたいになってきた気がする。帰り、待ってるねと言えば、すぐ帰るからな!と叫んでピジョットに乗って行ってしまった。そんな彼を見送って、僕はにやりとくちびるの端をつりあげた。グリーンの家のドアノブに手をかける。ここからが僕の本番だ。



11:00

がちゃりと音がして、玄関のドアが開いた。マサラはとんでもなく無用心だなと思いながらも、グリーンの家の中の様子を伺う。…よし、だれもいない。ナナミさんもどこかに出かけているんだろう。まあナナミさんがいたところで、あたたかく歓迎してもらえるので幼なじみというポジションはとても便利だ。僕はまっ先に風呂場に向かった。そしてそこにある洗濯機を覗く。なにも入っていなかった。グリーンもナナミさんもきれいずきなので、洗濯物をためたりはしないんだろう。チッと舌打ちをして、次に風呂場を覗く。お風呂もきれいに掃除されていて、朝から使ったあとなど微塵もない。僕はまた大きな舌打ちをした。グリーンの残り湯でもあればすすったのに。とりあえず僕はグリーンが使っているシャンプーのにおいをかいだ。このにおい、すきだ。



12:00

階段をのぼってグリーンの部屋へ入る。まず深呼吸をして肺いっぱいにグリーンの部屋の空気を入れる。そして僕は自分の服を脱いだ。パンツ一枚になって、そしてグリーンのベッドにダイブした。肌に直接感じるグリーンのベッドの感触。あとにおい。枕に顔をうずめてすーはーすーはーと呼吸をした。ああ、ここで毎日グリーンは寝たりくつろいだりアレしたりするんだ。ぎゅっと布団を抱きしめて、僕はあらぬ妄想に駆られながら意識を手放した。



18:45

ぱちりと目を覚ましたら、もう夕方だった。しまった、朝早くから行動したのがあだになったか。でもグリーンとアレをナニする夢を見れたのでまあいいか。僕は名残惜しくもグリーンのベッドからもぞもぞと這い出た。ぶるりと寒さが襲う。そうだ僕はほぼ全裸だった、ほぼ。僕はグリーンのクローゼットを漁ると、彼の部屋着のTシャツを見つけた。それをなんの迷いもなく着る。グリーンと少し体格差があるのと、あと彼は私服はジャストサイズを好むけど、部屋着はゆるめだすきだから、僕が着るとちょうど尻が隠れるくらいの長さになる。これはきっといいグリーンホイホイになるだろう。また泊まりに行ったときにでも借りて、この恰好でグリーンを釣ろう。


そのとき。


がちゃりと1階で音がした。同時にただいまーという声。

「…グリーンだ…!」

おかしい、予定より帰ってくるのがはやい。夜じゃなかったの?あれ?と思いながらも僕は迅速にベッドをなおし、漁ったクローゼットを整える。トントンと階段をのぼってくる足音。あとなにか変なところはないか、大丈夫か。よしあとはグリーンの本を読んでいればなにもおかしくな…


「!?」


おかしいところあった!いま僕はグリーンの部屋着を着ている!こればかりはうまい言い訳をできる気がしない…!こんなの見られたらグリーンに変態と言われ罵られ…あ、それいいな。…じゃなくて!足音はもうすぐそこだ。僕は自分の服や荷物をひったくって、大きめのクローゼットのなかに隠れた。同時にガチャリと部屋のドアが開く。僕は薄暗いクローゼットのなかで服に埋もれながらも(グリーンのにおいが充満している。ここをベッドの次のサンクチュアリとしよう)、扉の隙間から部屋の様子をうかがうことができた。



19:00

ただいまーとだれもいない家に向かって一応言う。返事が返ってくるわけもなく、俺はまっすぐ自室に向かう。朝からレッドのせいで仕事も上の空で、トレーナーたちに怒られた。でも平気。だってレッドが待ってるって言ってくれたし俺平気。部屋に入ると俺は荷物を床に置いて、上着を脱いだ。最近はなんだか肌寒い。さっさと着替えてレッドに会いに行こう。



19:30

グリーンが部屋に入って上着を脱ぎはじめた。おっと生着替えキタコレ!と喜んだのもつかの間、グリーンはまっすぐこちらに向かってくる。しまったここはクローゼット…!脱いだ上着をしまうための場所だ…!扉がゆっくりと開き、光が差し込んでまぶしい。終わった。これは終わった。でもその後のグリーンに罵られるプレイは期待していいかな…?



19:45

クローゼットを開けるとそこには菩薩みたいな顔をしたレッドがいた。あまりに顔が穏やかだったので、驚くよりもレッドが始めからここに住んでいたような気さえした。いやいや。

「レッド…なにしてんの?」

そう問いかけるとレッドは儚げに笑った。

「なにしてると思う?」

いやわかんねーよ。するとレッドはもそもそとクローゼットから出てきた。なぜか自分の服を持っ……え…?よく見るとレッドは俺の部屋着を着ていた。ぎりぎりの裾と、そしてまぶしい生足。電気に照らされて白さが浮き出るようだ。俺はごくりと生唾をのんだ。レッドは相変わらず悟りをひらいた顔をしている。

「…それ…俺の…」
「そうだね」
「なんでおまえが着て…?」
「さあ、なんででしょう」

レッドがにこりと笑う。俺はうまくまわらない頭で必死に考える。レッドの生足…じゃなくて、だめだこれは目に毒だ。頭がくらりとしてしまう。俺はなるべくそれを見ないように、またぐるぐると考えた。思い出すのは朝、レッドが言った、帰り、待ってるねという言葉…。あれ夫婦みたいでよかったよなあ、レッドと結婚したら俺しあわせ死にするわ。と、その瞬間ピンときた。そうかわかったぞ!



「レッド流の帰りを待つ新妻ごっこだな!?」



沈黙。え、ちがうの?レッドを見れば菩薩ではなくまるで阿呆を見るかのような顔でこちらを見ていた。しかし次の瞬間にはふわりと笑って、


「そうだよ。おかえり、だんなさま」


そして俺にちゅっとキスをした。
俺もうしあわせ死にするわ。












しあわせでは死ねません
グリーンがばかでほんとによかった…!