「うわ、天気わる…」


朝、目覚めてカーテンを開けた先に広がっていたのは、思わず声にだしてしまうほどの曇り空だった。


「7月7日だってのになあ」


ひとり言をつぶやいた。
今日は七夕だ。
いつも思うが、どうして毎年この日は天気がわるいんだろうか。
…織姫と彦星は、今日この日、1年に1度しか会えないのに。
柄にもなくロマンチックな考えが頭をよぎった。
朝からこんな天気じゃ、今年も天の川は見れそうにない。







トキワジムに行けばジムトレーナーたちが笹と短冊を用意していた。
満面の笑みで、リーダーも願いごとをどうぞ!なんて言われてしまえば、こっちも書くしかないだろう。
とりあえず無難に「みんなが健康でありますように」と書いておいた。
それを笹につるせば、まわりから年寄りくさいと言われた。うるせえ。
本当のねがいは書かない。
それは、俺が自分でかなえてみせる。
ギャーギャー言ってくるジムトレーナーたちも、そんな俺の性格はわかってるんだろう。
結局は俺のあたりさわりのないことや、ジムトレーナーたちの切実だったりふざけた内容、そんなねがいが書かれた色とりどりの短冊がつるされた。







夕方には雨が降っていた。
しだいに雨足は強くなっていて、帰れなくなる前に早めにジムをあとにした。
マサラの家に着くころには豪雨で、雷がギラギラと闇を照らしていた。



窓からぼんやりと外を眺める。
雨は一向にやむ気配もなく、ごうごうと窓ガラスを叩きつける。


「これじゃ、シロガネ山は吹雪だな…」


レッドは今なにをしてるんだろう。
ちゃんと吹雪をしのげているだろうか、凍えてないだろうか。
ふとあいつに会いたくなる。
そんなときに限って、会えない。

織姫と彦星を想う。
待っているであろう織姫のために、彦星はどうするだろうか。
俺だったら?
そりゃ、


「なにがなんでも会いに行くだろ」


立ち上がった、そのときだった。




「グリーン」




俺しかいないはずの部屋にひびく声。


「レッド!?」


そこには、びしょ濡れのレッドがいた。


「おま…っ!いつの間に!?ていうかどこから!?どうやって!?それよりびしょ濡れじゃねーか!今タオル持ってくる…ってか床までびっちゃびちゃじゃねえかお前えええ」

「ついさっき。玄関から。リザードンで。あとグリーンうるさい」

「………」


わずらわしそうに俺を一蹴したレッドは、したたる水滴をそのままに、俺を引き寄せた。
ぎゅっと抱きしめられる。


「…レッド…?」

「…グリーンに会わなきゃと思ったから、来た」


雨で冷たくなったレッドの体温がじんわりとつたわって、俺の体温と混ざりあってとける。
鼻先がくっつきそうな距離で目が合った。


「今日、なんの日か知ってるか」

「たなばた」

「へえ、レッドのくせにどこで覚えたんだ?」

「なんかの本」

「適当すぎんだろ…」


さすがレッド、本当に曖昧だ。
あまりのらしさに吹きだしてしまった俺のくちを、レッドのそれがふさぐ。
リップ音は雨の音に混じって消えた。


「なんか」

「ん?」

「たなばたは、おりひめとひこぼしが会う日らしいから」

「うん」

「おひめさまに会う日だから、グリーンに会わないとって」

「なんだそれ…てか俺が織姫かよ」

「なんで?おひめさまはグリーンでしょ」


反論する前にまたくちをふさがれた。
それよりレッド、


「…つめてえ。風呂入ってこい」

「いっしょに入る?」

「ばーか」


ふてくされたレッドを風呂に追いやって、俺はもう一度窓の外を見る。
相変わらずの雨で、天の川は見えないけど。
俺の彦星には関係なかった。
というか俺も彦星のつもりだけどな。

俺は部屋のカーテンをしめて、部屋をでた。











77
ほしにねがいを、なんて。







七夕っぽい話を書きたかったです遅くなりましたが