シロガネ山の頂上を目指して登る。
いい加減この山道にも慣れたが、容赦ない吹雪には慣れることができない。

今日は4月1日、俗に言うエイプリルフール。
どんなうそでもついていい日、だそうだ。
興味はないし、そもそも誰が決めたんだ。
ただ、やっぱりこういうお祭りごとがすきなやつはたくさんいるわけで。
ヒビキからは「マリルが雑巾くさいので、これからは雑巾として使うことにしました!」
コトネからは「実はシルバーくんを調教し始めてもう4日経ちます!」
その他いろいろ。
もっとまともなうそはつけないんだろうか。
というかそもそも、本当にうそなのか…?




頂上の相変わらず薄暗い洞窟に到着する。
ぼんやりと光るのはきっとリザードンの尻尾だ。


「よう」

「…グリーン」


気だるげにこちらを見るのはやっぱり相変わらずの半袖を着用したレッド。
傍にはやっぱり、丸くなって眠るリザードンがいた。


「おまえ、この前コート持ってきただろ。着ろよ」

「あ、忘れてた」

「忘れてた…って…」


そこらへんに水を撒いたら数分で凍るレベルの寒さだぞ。

(ありえねーだろ…)

俺は無言で自分が巻いていたマフラーを外し、レッドに渡す。
レッドも無言でそれを受け取る。
そして俺はレッドとちょっと間をとったところに腰をおろした。
リザードンの炎があたたかい。
洞窟の外では吹雪がびゅうびゅうと音を立てている。
俺たちはいつものように何でもない話をする。


「あ、そうだ。おまえ今日何の日か知ってるか」

「何の日…?」

「ああ、4月1日だぜ」

「……あ、キン肉マンの誕生日か」

「…なんだよそれ…ばっか、エイプリルフールだっつの」

「なにそれ」

「やっぱ知らねーか、さすがレッド」

「興味ない」


こうもばっさり切られるとな…。
まあ興味がないのは俺も同じだ。
俺はヒビキやコトネの話も交えてこの日の説明をする。
いかにも興味なさそうにレッドはふーんとだけ言った。


「おまえなあ…もう少しおもしろい反応しろよ…うそ言うとかさあ」


レッドは一度不本意そうにこちらを見て、それから考えるように足元に視線を走らせた。
そしてまたこちらを、俺の目を見て。



「すきだよ、グリーン」



一瞬こいつが何を言ったのかわからなかった。
でもレッドの声が俺の頭のなかでぐるぐるまわって、ぐるぐる、ぐるぐる。


(……は、え、すき…?)


「おまえ、今なんて」


聞き間違いか何かか。
しかしレッドは俺との距離をじわりとつめ、俺から視線をそらさない。


「すきだよ」


レッドの顔がだんだん近づく。
ごくり、唾を呑んだ。
お互いに息がかかるほどの近さになったとき、レッドはにやりと笑って、


「うそだよ」


と言った。











息ができない
エイプリルフール、うそか、ほんとか