グリーンがぬこになる話
そもそもpkmn界にぬこはいねえとかそういうのは無視で














うすいミルクティーのような色のしなやかな毛並みに、チョコレート色の虎模様。
すらりと伸びた手足。
翡翠にゆらめくふたつの眼。


ある朝、目覚めたら俺は猫になっていた。


原因はわからない。
だけど特に焦りはなく、なんとかなるだろうという思いと今日1日をどう過ごそうかという考えが頭をめぐった。
幸い昨日からあさってまで、姉はジョウトに旅行に行くとかで留守にしている。
家にひとりでなぜか猫になってる俺。

(…笑えねえ…)

とりあえずどうするか。
ぱっと浮かんだのは帽子をかぶった黒髪。
俺は慣れない4足歩行で窓際に立ち、窓を身体で押し開けて向かいの家の窓へ飛び移った。
そしてがりがりとガラスをひっかく。
嫌な音だ。
耳をぺたんとさせる。
しかしひっかくのはやめない。
はやく気付け、レッド。


しばらくしてやっと窓が開いた。
黒いTシャツに寝癖でピンとはねた黒髪、その下に不機嫌そうな顔。
俺はレッド、と呼びかけたつもりだったが、口から出たのはニャーという鳴き声だった。

「なに」

「ニャー」

「……」

「……」

無言で見つめ合う。
するとレッドは突然、俺の脇のあたりに手を入れ正面から抱き上げた。

(な、なんだ?)

「……オスか」

「ニャアアアア!!!」

どこを見てんだよ!
俺は思いっきりレッドの頭をはたいた。
けど、思ったより前足が短くて届かなかった。
完全に空振りをして行き場をなくした俺の前足は下の位置に戻る。

「ネコパンチだ…!初めて見た!」

…まあ、こいつがうれしそうなら、いいか。
















結局レッドの部屋に入り、ふたり…もといひとりと1匹でごろごろしている。
レッドはベッド、俺は床。
すっかり日は昇ってしまっている。
そのとき、

「レッドー!ちょっと手伝ってくれないー?」

1階からおばさんの声がした。
レッドは、んーと生返事をしたけど、ベッドから動く気配がない。

「ニャー」

おい、おばさんが呼んでるだろ。
はやく行ってやれよ。
鳴いてみるけどやっぱりレッドは動かない。
だから俺はさっきよりもっと大きな声で鳴いてみた。

「ニャーニャー」

「………」

「ニャー!ニャふっ」

視界が暗転。
なにが起きたのかわからなかった。
なんだかあたたかい。
まわりの様子を伺おうと静かに耳をすますと、すぐ近くで息づかいが聞こえる。
そちらを向くと暗闇で赤い光彩があった。


「やっと静かになった」


耳元でささやかれ、全身の毛がぞわりと立った。
どうやら俺はこいつにベッドの中へ引きずり込まれ、抱きかかえられてる状態らしい。
…ちょっと待て、抱き……?


「きみはあったかいね」


レッドがさらに俺を抱きしめて頬を擦り寄せる。
どっちが猫なんだか、というかこの状況…!

(おいしすぎるだろ…!)

「…あれ、」

レッドはなにかを思いついたのか、ふいに声をあげた。
そして俺のにおいをかぐ。
なんだ、なんなんだ。


「なんか、グリーンのにおいがする」

「!!」


(お、俺のにおい…!?)


なんだ、レッド、俺のにおいって。
そんなの意識して、そんな、においって。
動揺して耳も尻尾もピンと立ってしまっている。
自分でどうにもできない。
そんな俺とは裏腹にレッドは俺の背中を撫でている。

「レッドー?」

またおばさんの声。
全然おりてこないレッドに痺れを切らしたようだ。
レッドは、はあいと返事をして今度こそベッドから出た。

「ちょっと待っててね」

そう言って1階に向かった。
俺は全身が心臓になってしまったみたいな、鼓動が大きくて速くて苦しい。
猫だけど、猫だけど、レッドに抱きしめられて、俺のにおいがするって言われて。
だめだ心臓が耐えられねえ。
俺はまた窓をつたって自分の部屋へ逃げ、自分のベッドへもぐりこんだ。
頭のなかでさっきのことがぐるぐるぐるぐる。
そうしているうちに急にとてつもない睡魔が襲ってきて、そのまま眠りについた。


目が覚めたら夜で普通に人間に戻っていた、けど。


(次レッドとどんな顔して会えばいいんだ…!)













ぬっこぬこにしてやんよ

「あ、グリーン」

「レレレレッド…!おっ、す!」

「?なに動揺してんの?」

「べべ、べつに、動揺とかしてねーしぃ?」

「ふうん?あ、そういや昨日ねこ見なかった?虎模様の」

「みっ、みてねーよ!!!」

「…グリーンってねこ飼ってたり…する?」

「かっかか飼ってるわけねーだろ!」

「だよねえ」

「(それ俺ですなんて言えるわけがねえ!)」