03.07 無題 お先。おまえもシャワー浴びてこいよ。 腰にタオルをまいただけの恰好のグリーンはいつものぴんぴんとはねた髪から雫をしたたらせたまま言う。恥ずかしいのかどうしてもまだ風呂にだけはいっしょに入ってくれなかった。風呂に入るよりもきっと、もっと恥ずかしいだろうことをしたあとの話だ。ほてったからだを冷やすように、グリーンは窓際に立つ。窓を開ければゆるゆるとなまぬるい空気が入り込んだ。 その背中を見る。骨張ったそれは月明かりでぼんやりとしろくひかる。肩甲骨がきしりといきもののように動いた。いや、グリーンはいきものだけど。なにかもっとべつの。そんな気がした。 そんな恰好で風邪ひくよ。そう言えばグリーンは空気だけでわらう。僕は風呂場へ足を向けた。湯舟にはお湯がためてあって、ぴちゃりと水滴が波紋をうんだ。ふとそこを見ると、しろい羽根が、あった。ひとつの。僕はそれを見て、グリーンは天使だったんだと妙に納得した。(それがピジョットの羽根だということもわかっている) ……… うちの風呂に落ちてたゴミを見ておもったはなし うちのはまちがいなくただのゴミだったけどグリーンは天使 このはなしのグリーンは♂♀問わない 10.26 ハロウィンのぼつ 「あーっ!だめですよう!」 「え?」 トキワジムの外でポケモンたちの毛ずくろいをしていたら、そんな声が聞こえた。 振り返るとそこには……魔女がいた。 「…コトネ」 「はい?」 「なにしてんだ?」 にっこり笑ったコトネは、三角帽子に濃紺のワンピースとマントを身につけ、目に痛いしましまな靴下と先の尖った靴。 ご丁寧に、手には魔法のステッキみたいな棒。 一般人の大半が思い描くであろう、まさに魔女の格好をしていた。 「グリーンさんこそなに言ってるんですか!今日は何日かわかってます!?」 ずずいっと鼻息荒くコトネに言われ、ぼんやりと今日の日付を思いだす。 10月31日………あ、そうか、今日は、 「ハロウィンか」 「正解です!!!というわけで!!!」 コトネがじりじりと近づいてくる。 手はあやしく動いていて、いやな予感しかしない。 耐え切れずに声をかけてもコトネは笑うだけだ。 そしてついに、俺の服に手がかかった。 「じゃ、グリーンさん。ハッピーハロウィン!」 その言葉を合図に、俺は身ぐるみを剥がされた。 そして今に至る。 トキワジム内はかぼちゃやこうもりなど、なにかハロウィンっぽい飾りつけがされている。 コトネに加え、ヒビキやシルバー、ジムトレーナーもいっしょになってやっている。 …シルバーはたぶん無理やり引き込まれたんだろうな…。 で、俺は。 「さみい…」 冬直前のこの時期に、上半身と顔に包帯をぐるぐる巻かれていた。 もちろん上半身は裸である。下はもちろん履いてるけど。 ミイラ男!と言われたけど、なぜ俺をミイラにした勘弁してくれ。 くしゅんっとひとつくしゃみをして、俺は自分のからだをさすった。 ジム内は空調完備なものの、さむいものはさむい。 10.20 木漏れ日 たまに、きみのことばかり思い出してしまうときがある。 もう離れて3年、経ったじゃないか。 会わなくなって3年、経ったじゃないか。 つめたい雪山にひとりで。 戦いを繰り返して。 頂点と言われる先の、なにかを、求めて。 たまに、きみのことばかり思い出してしまうときが、ある。 だけどいつか忘れていくから、かなしいけれど、僕は生きていけるんだ。 10.19 エイプリル チャンピオンになった。 四天王と、ライバルを倒して。 オーキド博士の言葉と殿堂入り、そして悔しそうに顔を歪めるグリーン。 最強になれたことがうれしかった。 でもライバルのあの顔が脳裏に焼き付いて離れなかった。 「…レッド」 グリーンの呼びかけに振り返る。 「俺、トキワのジムリーダーになるよ」 風が僕らのあいだを吹き抜けた。 木々がざわめく。 空は青くて、雲はなかった。 「…そっか。グリーンなら、いいジムリーダーになるよ」 グリーンは僕と同じ道を歩むことはない。 先へ、先へ。 なにかを見つけては僕より前へ。 「グリーンのそういうところ、すきだな」 「なっ、なんだよ急に!」 「べつに」 照れるグリーンを見て僕は笑った。 かみさまなんて信じたことはないけれど。 でも、もしいたとしたらきっとやさしくていじわるだ。 僕をグリーンと出会わせてくれたけど、僕らは別々の道を歩むように。 5番道路を僕はシロガネ山へ、グリーンはトキワシティへ。 声もかけず、そのまま振り返らずに歩いた。 10.17 虹 いつもそうだ。 僕たちは些細な理由で喧嘩をする。 あとで原因を思い出そうとしても思い出せないくらい。 今回だってもう忘れた。 グリーンは拗ねると僕の帽子を持って、トキワの森のいちばん大きな木のところへ行ってしまう。 その場所はいつもおなじだから、今日は先に行って待ってみようか。 |