暑い。
今の頭の中にはその単語しか思い浮かばない。 自分の熱ですぐに熱くなってしまうフローリングの床。寝そべりながら少しだけ横に転がって移動する。自分の部屋と同じ、けれど色が違うカーペットを避けて。 体温よりは冷たい床が気持ちいい。けれどすぐに常温になってしまって、また移動する。その繰り返し。 あまり役に立たないけれど、気休めに握っていたうちわで顔を扇いだ後、服の裾を持ち上げて胴体を扇ぐ。 これぐらいじゃあ気休めにもならないけれど。 全身にじっとりと纏わりついた汗が気持ち悪かった。
「バテてんな、レッド」
氷の入ったオレンジジュースを乗せたトレイを持ったグリーンが部屋の扉を開ける。 返事をする余裕はおろか、顔を向ける事も出来ない。 普段からシロガネ山に居るせいか、寒さには強いけれど暑さには弱いのだと自覚する。 グリーンがオレンジジュースを差し出してきたのをみて、起き上がる。 コップの周りに付いた水滴が涼しげで、少しだけ暑さが和らいだ気がした。そしてコップの中身を一気に飲み干す。喉が渇いていた事もあって、それはものの数秒でなくなってしまった。 喉を通っていく冷たいオレンジジュース。 しかし、次の瞬間には汗が全身から吹きだしていて、不快に眉を顰めた。
「すげー汗だな」 「………」 「すぐそこの21番水道で、子供たちと一緒に水遊びでもしてきたらどうだ?」 「…嫌だよ」
ニヤニヤと笑いながら言うグリーンに少しだけムッとしながら答える。 そんな僕にグリーンは冗談だって、と笑う。
「でもまぁ、シャワーでも浴びてきたらどうだ?」
シャワーという単語に反応する。 冷たい水を頭から被ってさっぱりするのもいいかもしれない。 既に全身汗まみれで気持ち悪い。ここはグリーンの家だから…なんて遠慮は幼馴染の僕達の間にはなかった。
「……行ってくる」 「おー、タオルとかは適当に使えよ。置いてあっから」 「ん」
小さく返事をしてグリーンの部屋を出て風呂場に向かう。 昼間に風呂に入る事に違和感を感じたけれど、特に気にすることなく脱衣所で服を脱いでタオルを腰に巻いて風呂場に入る。 蛇口を捻れば、先ほどまでは静かだった風呂場にシャワーの流れる音が響いて、それだけで涼しくなる。 冷たい水を頭から被れば、一瞬全身がひやりとしたけれど。次に襲ってくるのはそれを上回る爽快感。 気持ちよさに目を閉じていたら、脱衣所のドアが開く音がした。
「おい、着替えここに置いとくかんな!」
ガサガサと脱衣所でグリーンが動く気配がする。 ふと、思った事を口にしてみる。
「ねぇ、グリーン」 「ん?なんだ?」
シャワーの音で掻き消されてしまうそうな程の大きさの声をグリーンは聞き逃さず返事をしてくれる。
「一緒に入ろうよ」 「は…?」 「気持ちいいよ」
がらりと風呂場の扉を開ければ、シャツを持ったグリーンと目が合う。 グリーンは一瞬ぽかんとした表情をしていたけれど、次の瞬間には扉開けるならシャワー止めろ!と怒りだす。 床で跳ねた水しぶきが脱衣所に飛ぶのが嫌なんだろう。 それを無視して、もう一度質問する。
「一緒に入ろうよ」 「いや、俺はいいよ」 「なんで?」 「そこまで汗かいてねーし」
大体、男2人で入ったら狭いだろ、とグリーンは言う。 けれど、一人でこの爽快感を味わった所で楽しくもなんともない。 シャワーに楽しさを求めるのもおかしな話かもしれないけれど。 その時、唐突に湧いた悪戯心。隠しきれずに、少しだけ口角を上げればグリーンは嫌な予感がしたのか後ずさりしようと足を動かす。それよりも早くその腕を掴んで浴室へ引きずり込む。
「うわっ!?」
僕によって、シャワーが流れっぱなしになっている浴室に入ったグリーンは全身が濡れていく。 服を着たままのグリーンは、服が肌に張り付く感覚に眉を顰めて、そして僕を睨んだ。
「何すんだ!」 「気持ちいいでしょう?」
僕の一言にグリーンは怒る事を諦めて溜息を一つ吐く。 こうやって甘やかすから、駄目なんだよグリーンは。そんな所も好きだけれど、と心の中で呟く。 頭から被ったせいでグリーンの跳ねた髪が寝てしまっている。それをグリーンが手で掻き上げた瞬間、全身にぞわりと何かが走った。 そんな僕に気付かずに、グリーンは上着を脱いで床に捨てる様に放り投げた。
「ったく…お前のせいで洗濯物が増えただろうが」
怒る所が主婦の様な(この場合は主夫だろうか)グリーン。 シャワーの水は未だに僕とグリーンを濡らして、体温を奪っていく。 先ほどからお湯ではなく、水が出てくるシャワーに、グリーンが冷たいと愚痴る。そして僕の腕を触って、ある事を確かめた様だった。
「何で湯じゃなくて水なんだよ。お前、滅茶苦茶身体冷えてんじゃねーか」 「暑いから」 「…風邪ひくぞ」
夏風邪は馬鹿がひくっていうし?とニヤニヤ笑うグリーン。 その挑発する様な言葉と表情に。 反射的に僕はグリーンを壁に押し付けた。
「んだよ…これぐらいで怒」 「じゃあ、グリーンが温めてくれればいいよ」 「は――んっ…!?」
身体を密着させるように押し付けて、何かを言おうとしたグリーンの口を塞いで、その唇に噛みつくようにキスをする。 触れ合うだけのキスじゃ物足りなくて唇の隙間から舌を差し込んで、歯列をなぞる。 逃げようとするグリーンの後頭部を掴んで、逃がさないようにして。 舌同士を絡めようとした時、ぴくりと肩が揺れたのに気付いて目を細める。 ぴちゃ、と小さな水音はシャワーの音に掻き消されてしまったけれど。 じっくりと口内を堪能した後、グリーンの顔を見れば口の端から涎を流していて、それが僕の目には酷く卑猥に映った。
「は、っ、満足、したか?」 「―――まさか」
足りるわけがないよ、という後の言葉は飲みこんだ。 あまり抵抗してこないグリーンに、自分の良い様に解釈して、もう一度その唇を奪う。荒くなっていく自分とグリーンの呼吸に、理性が溶けていく様だった。 離しては奪っての繰り返しに、合間にはっ、はっ、と短い吐息が零れる。 グリーンのベルトをはずして、ズボンのチャックを下ろせば自然とズボンは床に落ちていく。本格的に水を含んだズボンは色を変えていた。 それに構う事なく、下着に手をかける。グリーンは恥ずかしそうに顔を赤く染めたけれど、抵抗はしなかった。床に落ちたズボンを一緒に下着も抜き去って、二人で生まれたままの姿になる。 既に緩く反応しているグリーンの性器に指を這わせれば、密着させているグリーンの肢体が微かに震えたのがわかった。 それは羞恥からか、それとも期待からか。その考えに前向きだと自分でも思う。けれど不安に思うには、彼と僕は身体を重ねすぎていた。 微かに震えるグリーンの性器の裏筋をなぞれば、反応を返すそこ。 焦らす様な緩い動きを続けた後、先端から流れる先走りを指に絡ませて竿を扱く。 初めはゆっくりと、段々早く。シャワーの水音とは違う、ぐちゃぬちゃと粘着質な水音が浴室に響く。
「あっ、は、うぁっ!」
僕の肩を痛いほどの力で掴んで、グリーンは小さく喘ぐ。 顔を赤くして、トロンとした表情は僕の理性を崩壊させていく。 尿道に軽く爪を立てた時、グリーンが目を見開く。開けっぱなしの口からは涎を流して。
「ひぁぁっ!」 「――グリーン」
小さな浴室にグリーンの大きな声が響く。それに気付いたグリーンが恥ずかしそうに目を泳がせた。 今更そんな事を気にするグリーンがおかしくて、可愛いと思った。 とろとろと先端から流れる精液を指に絡ませて、後孔を軽く突く。 その瞬間、グリーンの身体が強張る。周りを指でなぞるようにして、一本、指を埋め込んだ。 ゆっくりと、解す様に。
「あ、いっ…!」 「痛い?」
呻くグリーンにゆっくりと指を引き抜く。 その時、眼に入ったのはボディソープ。良いモノを見つけたと言わんばかりにそれを掴んで、ポンプを押して中身を出す。 それを未だに流れ続けるシャワーで軽く泡だてて、グリーンを見る。 グリーンはまさかと顔を引き攣らせた。
「ちょ、おい…」
逃げようとするグリーンの腰を掴んで、再度後孔に指を宛てる。 泡のお陰でかなり滑りがよくなった指は、面白いぐらい簡単に中に入り込んだ。 ぬちゅぬちゅと音を立てて、指でグリーンを犯す。
「ひっ、やぁ…っ!」 「――やだ?本当に?」
ここは僕の指を締めつけて、離さないのに。 いつの間にか指は一本から二本に増えていた。 グリーンの膝はがくがくと震えていて、立っているのがやっとという感じだった。 そんなグリーンを見て、僕は浴槽の淵に座る。それを不思議そうに見ていたグリーンを手招きする。 無言で腿を指させば、それが何を意味しているか理解したらしい。恥ずかしそうにしながらも、限界だったのか大人しく僕に背を向ける様にしてその上に座った。 後ろからグリーンの腰に手を回して抱きつく。
「なぁ…当たってる」 「…グリーンのせいだよ」
お尻に当たる熱に、グリーンの耳が赤くなっているのが背後からでもわかった。 そんなグリーンに小さく笑って、耳元で「いい?」と囁けば、聞くな馬鹿野郎とグリーンは小さな声で怒った。
「グリーン、腰浮かせて」
無言で腰を浮かすグリーン。素直なグリーンに、いつもこうなら良いのに、なんて少し思った。 自身を掴んで固定して、グリーンのそこに宛がう。 ピクリとグリーンが反応したと同時に、ゆっくりとそこへ侵入していく。ズッ、という音が聞こえた気がした。 先ほどのボディーソープが残っているのか、いつもよりも滑りが良くグリーンのそこは僕のそれを難なく呑みこんでいく。
「う、は、ああっ!」 「―――っ」
全部入りきった所で、一息吐いて。 その後、ゆっくりとグリーンの身体を揺さぶるように腰を打ち付ける。 付けたままだったグリーンのペンダントが、揺れる度にちゃりちゃりと音を立てていた。
「あっ、あ、ふっ…!」
圧迫感に呻くグリーン。 少し気を紛らわせようと、後ろからグリーンの性器を掴んだ。その瞬間、ビクリとグリーンの肩が揺れる。 その肩に軽く噛みついて歯型を残す。グリーンが小さく痛いと言ったけれど、無視して。グリーンの白い肌に残ったそれに、満足する。 そして思いだした様に掴んだ手を上下に動かして、扱く。
「――――っ!ひぅ…っ!レッド…っ!」 「…何?」
うわ言の様に僕の名前を呼び続けるグリーンが可愛くて仕方がない。 そんなグリーンをもっといじめたいと思ってしまうのは、僕の悪い癖だと思う。 未だに流れ続けるシャワーが視界に入る。 その瞬間、またも悪戯心が芽生えた。シャワーノズルを掴んで、大きく開かれたグリーンの足の中心部――今、一番敏感になっているであろう場所に当てる。 勢いの良く流れるシャワーの水が、グリーンの性器を襲う。 短距離から発射されるそれは、かなりの威力の様で、グリーンが上で暴れた。
「ひぁぁぁっ!?やめ、やめろ…っ!ひっ!」 「くっ…!」
グリーンが腰を捻った瞬間、僕の方にも刺激が走る。 それを何とか耐えて、グリーンが逃げない様に腰を掴む。 そしてシャワーはそのままに、腰を打ち付けた。
「ひ…っ!やぁぁぁっ!しゃ、わ、止め…!」 「なんで。気持ち良さそうなのに」 「レッ、おかしく、な…っ!」
振り向いて、必死に制止をかけるグリーン。 涙と涎でぐちゃぐちゃになった顔を見て、何かがブチと切れた気がした。 グリーンの顎を掴んで、唇に噛みつく。 シャワーを放り投げて、両手で腰を掴んで勢いよく突き上げた。
「んぅっ!?ふぅぅ…っ!」
ビクビクと反応するグリーンにお構いなしで、前立腺を何度も擦り上げる様に突き上げた。 グリーンがあまりの快感からかボロボロ涙を零していた。そして――恐らくは無意識に――僕の唇を噛んで快感に耐えている様だった。 ぎゅうぎゅうと締めつけてくるグリーンの中に、僕の限界も近づいてくる。
「グリーン…っ!」 「や、レッ、イく…っ!」 「いいよ…僕も…っ!」 「ふあぁぁっ!」
全身を痙攣させて、グリーンの性器から勢いよく白濁の液が飛び出す。 床に飛び散ったそれはシャワーに流されていく。 グリーンがイった時の強い締め付けに、僕も数秒遅れてイった。 グリーンを抱きしめて、その身体の体温を確かめながら息を整える。
「最悪だ」
グリーンが呟いた。
「お前のせいで身体は冷えるわ、ペンダントは水浸しになるわ、洗濯は増えるわ、腰は痛くなるわ…散々だぜ」
ベッドの上で寝そべりながら愚痴るグリーン。 腰が痛くて動けないらしい。 愚痴を言うけれど、怒りはしない所を見ると、僕は愛されているんだろう。その事実に嬉しくなる。
「何笑ってんだよ…」
わかりにくい僕の笑顔を見抜いたグリーンが怪訝な顔をする。
「――幸せだな、って思っただけだよ」
はぁ?とグリーンが眉を顰める。そんなグリーンに軽いキスをして。 不意打ちの攻撃に赤くなったグリーン。 たまには暑い日もいいかもしれないな、なんて思う僕は多分凄く単純に違いない。
いつの間にか夕方になり涼しい風が入る部屋には、風鈴の音が小さく響いていた。
とある夏の一日 (でも、やっぱり暑いのは苦手)
------------- とかちさんへ!
……… 風車のよみやさんからいただきましたー! ありがとうございます…! もうほんとにかわいい! そりゃ水にぬれた緑が髪をかきあげようものなら わたしだってムラムラしますわ…! すごく夏っぽくて色っぽい作品をありがとうございます! わたしはとてもしあわせです!
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