(13)
吐精をしてのち、周霖は吐き捨てるように嗤った。確実に、今度は嗤笑だった。
「…ほんとうに、…都合のいい、身体だ」
悪くない、と。至近距離で拾った台詞は、表だけをとれば、あるいは褒め言葉だったのかもしれないが。
「―――ひ…ッ?!」
男は自らを引き抜いて、雑な動作で俺の腰を掴んだ。大した力も掛けず、ひっくり返す。
特段、逃げるつもりもなかったのに、反射的に、前方へ這いずった。つがいの、――今となってはすっかり熱くなった――手が、俺の太股をつかみ己へと引き摺り寄せた。
そのまま。
「ああ?!」
ずちゅ、と聞くに堪えない音がして、もう一度、張り詰めた肉が俺の下を抉った。
上半身を布団へ沈めたまま、尻だけを彼に捧げた体勢で、犯される。左右の手首はふたつとも彼の手の中にあった。棒きれのように掴まれ、ひたすら怒張を押し込まれる。ぱん、ぱん、と尻と相手の腰骨のあたりが再びぶつかる。
吐き出された精が入り口から、陰嚢の後ろまでをぐしょぐしょに湿らせていた。しとどに濡れそぼったそこは雄である俺の性を裏切っていた。
「うっ…ぶ、んぐ…、うう…」
顔面を敷布へ擦りつけ、ひたすら口を噤むことに専心する。そうでもしないと、また無様な声を上げてしまいそうだったからだ。恥ずかしい、という感情はないけれど、聞いても互いに気分のいいものじゃないだろう。いっそ息を止めたほうが効果的かもしれない。
男が、剥き出しになっていた俺の首を掴んで、その横側に食いついていなかったらきっと、そうしていた。
「い…、ぁああああああああああッ!」
おそらくは、花紋の浮き上がっている部分を、花精の証を傷つけるように牙が突き立つ。
ぷつ、と皮が弾ける幻聴が、聞こえた。
深く、深く、周霖が息を吸い吐く。生温かい呼気は獲物が食い殺される寸前に感じるそれ、だった。
「い、痛、…しゅう、り、――――やめ、て…!」
金茶の鬣が、俺の視界を奪う。首根を食らう行為はそのままに、抽挿が再開される。抵抗しようと自由になった片手を後ろへ回したが、男の頭に触れたところで、力を失ってしまった。
「…あっ、っ、は、…、あふ、…あ、んっ…」
声を殺す必要はなくなっていた。もう、意思でどうにかできるような統制など、失っていたからだ。
唯々、感じる身体があって、それをまさぐるつがいの掌があって。
首を噛み、痩せた肩の肉までもを抉りながら、周霖は浅いところを掻き回した。すぐに、どん、と衝撃が奔る。はらわたを押し上げられるほどの挿入にえづく。既につがいの名前すら呼べず、意味のない喘ぎしか発せなくなっていた。
こうべを垂れ、まばたきを忘れた景色は逆さまだ。
鼻の先にぬるい液体がかかる。俺もまた、気を遣っていたのだった。勢いのない射精は、周霖の動きに合わせて顎や、頬に飛んでくる。
手酷くされても、ただの作業であっても、周霖に抱かれるのは厭、じゃないのに、この身体はもうじき失われてしまうのだ。それが、たまらなく口惜しい。揺さぶられる行為の中、取り留めなく―――しかし、形らしきものを得ていた最後の思考だった―――そう考えて、これが口惜しいということか、と思った。
男の蹂躙は、俺が意識を飛ばすまで続いた。
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