(11)
俺の後ろが彼の指の三本を咥えこんだときには、もはや、男の屹立は割れた下腹の筋へ着きかねないほどに反っていた。ぐちゅ、といやらしい音が耳朶を打つ。とても、自分の身体から生み出されているとは思えない、淫猥な音だった。
頃合いであることは、促されずとも分かる。―――確かに、慣れ始めている、と思う。
力の入らない膝で立ち上がり、癖の強い金茶の髪を抱きしめる。それとなく、脚を開きながら。
「しゅ、…うりん」
しかし、応えはない。ただ、尻たぶが乱雑に暴かれて、ぬかるんだそこへ、硬い切っ先がひたり、と触れた。
自分で慣らしたところで、どうしても異物感は拭えない。勿論、後孔を犯して悦ぶような性癖はないから、受け入れの機能を持たない器官を、無理にほぐす、それだけだ。
怖々と、少しでも易く「使える」ように、準備をするだけ。
なのに。
「あ、ああ、あぁ―――」
身体の中を掻き回すものが男の指になってから、変化は顕著に訪れた。気遣いなど欠片もないのに、剣鉈を握るそれが軟膏を纏い、内壁を擦り上げただけで、俺の雄芯はこうべをもたげる。がさついた、周霖の皮膚の具合が感じられる錯覚まであった。
次に迎え入れたのは、ついさっきまで己と重ね、愛撫していた彼自身だった。
指とは比べられない質量と攻撃性を帯びたそれは、容赦なく、俺を引き裂いた。
「っ、ああっ!い…、っ、ぐう…ッ」
熱い。
苦しくて――――それでも、気持ちよくて。下顎に力が入らない。舌を中空へ差し出し、目を見開いて、全身を震わせながら下からの突き上げに耐えた。周霖を受け入れている部分が極限まで拡がって、ほかり、と虚のようになっている。こんな太さのものが入る余地があるのかと、意識の端の、傍観者である自分が呆然としている。
鞭打たれたみたいに硬直している俺を余所に、男は一度腰を引いた。彼をぎゅうと抱きしめるなけなしの拘束などまるで意に介さないようだ。えらや幹でもって、敏感な内側を削りつつ、肉茎が出て行く。
「んうっ、」
「…『お綺麗な』花精が聞いて呆れる」
くぐもった声が胸を刺した。どこか、浮ついた、らしからぬ音程。
楽しそう、という表現が過ぎって、まさか、と即座に打ち消す。
「どれだけ物慾しそうな顔を、して、いるのか」
そしてすぐに、膨らんだ嚢が入り口を叩くほどの勢いで穿たれる。
「あ…―――はぁっ、ああ、あああっ?!」
ぐちゅっ、ぐちゅっ、と、律動が始まる。俺をのしかからせたまま、痩せた腰を両手で掴み、がっしりした体躯のすべてでもって打ち付けてくる。性器と化した下肢は無防備に犯されていた。淫らな音をたてて、突き上がった陰茎を、奥深くに迎え入れることしかできない。
口の端を噛んで嬌声を殺そうとしても、無駄な仕儀だった。尻を持ち上げ、背を少し反らして広い肩へ掌を宛てる。そうすると男の杭が胎の、奥の奥まで侵入してくる。
「…あっ、あ、…ああっ、はっ、い、あ」
膝で立てるぎりぎりのところまで股を開き、相手の動きに合わせて、腰を振った。快感が深くなるに従い、互いの間で揺れる前が、だらしなく涙をこぼす。周霖はそこには触らずに、ぱんぱんに腫れ上がった乳首を、―――それも、やはり左側を食いちぎるみたいに噛んだ。
「ひ、ぎっ、い…いたぁ…ッ!」
「…はっ、また…てめえの、漏らしたぞ」
「あ、う、嘘…」
信じがたい思いで見下ろせば、栓を失ったみたいに、ぴる、ぴるっ、と白濁が漏れ出ている。面白がるように、男は硬くしこった先を歯で甘く噛み、舐める。同時に、膚が打ち合う乾いた音がするくらいに穿たれた。
「んう!」
ひっきりなしに溢れるそれが、先走りとは異なるものだ、と短い経験でも理解ができた。途端に、快感を受容する範囲がさらに広くなった気がして、反射的に、周霖の肩へ両の指先を食い込ませてしまう。
男は低く唸り、俺の脚を抱え上げると、そのまま押し倒した。敷かれた布団は宿の造作に見合った薄さで、背中に結構な衝撃が奔る。思わず咳き込みながら、すまない、と告げた謝罪は、掠れている。果たして届いたかどうか。
視界がぐるりと入れ替わる。
折れ曲がった自分の両脚の間に、周霖がいる。
案の定というか、快も不快もはかれない表情だ。単純に部屋があまりに暗いから、読み取れないのかもしれない。きちんと反応してくれている、ということは、俺のからだで、少しは気持ちよいと思えているのだろうか。いつになく視線が合うことを除いては、あくまで常態だった。
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