(9)
「…顔を上げておけ。目も逸らすんじゃない」
「あ…わか、…った」
この狭い部屋には、ふたりしかいないのに、まるで晒し者の気分だった。しかも熱に浮かされているのは俺だけ。まだ直接に触れても、触れられてもいないのに、陰茎がひくり、と震えているのが分かる。周霖の指がおとがいを掠めただけで、これだ。
理のちからが足りなくなっているからか、からだが、花護に接触する機会を必死に捕らえようとしているのだ。
つがいと接れたところから、じわりと快感が伝播するような感覚が俺を支配した。知ってか知らずか、周霖はわななく口脣の隙間をこじ開けて太い指を差し入れてくる。迷わず舌を差し出して奉仕した。
「ん…は、」
ちゅ、ちゅ、と飴のように舐めしゃぶる。だらしなく涎を垂らしてしまうのに、構わない様子で舌肉を嬲られた。口の中で震えるそこをしごかれるたび、何故か頭がぼうっとしてくる。夢中になって続けると、突然、指を引き抜かれた。浅ましくも口を開いたままで、思わず追いかけてしまう。
「あぅ、は、んうっ…」
「いい顔をする」と、男は笑みに似た表情を作った。「…いつもの取り澄ましたツラより遙かに見られる」
「う…?」
いつもの―――取り澄ました?何だ?何も、お前に取り繕うものなど、あるはずも、ないのに。
思考はひたすら上滑りしていくばかりで、とにもかくにも、彼と重なる場所を増やしたくて、這わせた舌を指から、ゆるく握られた拳へと移した。花護は、喉で嗤ったようだった。珍しくも好きなように、手を舐めさせてくれている。そのままにじり寄って来た俺が、後ろを解しながら半身を引き締まった体躯へすり寄せていくざまを、咎めもせずに観察していた。
乗り掛かり、首筋へ腕を絡める。金茶の髪が爪の間に引っかかった。普段ならあり得ない距離に、自分の何処か―――それが頭だか肉体だかは知らない―――が、悦びに沸き立つ。
男のもう片方の手が伸びてきて、お返しだとでも言うように、俺の髪から結い紐を奪った。
「…っ」
肩骨あたりをざっと髪毛が撫でた瞬間、下半身がさらに反応する。視線を遣ると、ゆるく勃起した芯が、ぷつりと濁った珠を浮かべていた。
周霖が、また、わらう。
「さあ、次はどうするんだ?覚えたようにやってみせろ」
しがみつかれていた腕を振りほどき、男は無遠慮に俺の胸乳を摘まんだ。彼の指が濡れていたのは俺の唾液の所為で、平たい指が力をこめるたび、堪らず悲鳴を上げてしまった。左の乳首だけを殊更にいじられる。さかしまに、右側のそれがじんじん痺れ出す。
「いっ、あ…しゅうり、んっ…!」
爪が刺さり、固くしこった部位を引っ張られる。その刺激に引き摺られるみたいにして、胎の奥がきゅう、と収縮した。尻のあわいを濡らした膏薬がほたりと滴を零す。
相変わらず放られた右胸に辛抱が利かなくなって、止められないのをいいことに、思わず、自分で弄り始めてしまった。
こんなところを触る機会すら、考えられなかった。
俺を初めて組み敷いたあの日からずっと、まるで女に施すみたいに、彼は。
飾りとも言えない貧相な部位を、痛いほど押し潰されたり、歯を立てられたりするうち、俺は次第に反応をするようになった―――周霖がおざなりにやめたときなど、物足りなくて自ら慰撫するくらいに。男が蔑するように目を眇めていても、彼の仕草を真似て慰めてしまう。まさに「覚えたように」。
今だって、油断するととんでもない声を上げてしまいそうで、つらい。快感と興奮をかみ殺すように、必死に歯を食いしばる。花護はそんな俺を、ひたと見つめている。
「…っ、…」
「はっ、気持ちよさそうだな。自分だけ楽しんで、それで終わりにするのか」
否定のつもりでふるふる首を振ると、小さく鼻を鳴らされてしまった。
正座を崩したような姿勢になって、後ろへ解していた指を一度抜いた。敷布の上を探れば、阿房膏の器に手の甲が当たった。迷わず、指に付ける。
塊はあっという間に蕩け、まとわりつく感触にすら追い上げられる。先ほどから妙に口腔に唾液が溜まるのだ。自分の体躯が常になく熱いのも、分かっている。
やはり制止はなかった。躊躇ったのはほんの一瞬で、俺は、膏薬を絡めた手を男の下肢へと伸ばした。
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