烏と鳩(7)



3年生の引退、と言えば、新生徒会の構成員も無事に決まった。

見目先輩は予想通り、執行部に恙なく当選した――――しかも、ダントツのトップで。
トップ当選者はどうやら次期生徒会長と暗黙の了解で決まっているらしく、普通科出身の生徒会長が立つのは開学以来、相当に珍しいとのことだった。尤も、当のご本人は妙に毒のある笑顔で、下宿仲間の祝福を受けていたのだが。
東明先輩曰く、「見目はあまり頭に出張るタイプじゃないんだよなあ」とのこと。ナンバーツーくらいが気楽で丁度いいらしい。…俺は次点でも「気楽だ」なんて言う度胸ない。やっぱりちょっと、器が違うんじゃないのか。
剣道部二人組、日置&領戒も、あの演説会の後、数日はぼろぼろ、というか、目が虚ろになっていた。何でもご機嫌の怪しい見目先輩、剣道経験のある部外者を特別ゲストとして連れてきた挙げ句、その人込みで連日ハードな稽古を繰り広げたらしい。面の枠金から鋭い目で睥睨された上、

『親の敵と思って打ち掛かってこい』

と言われ、恐怖で立ちすくんだとか、何とか。
怒った(?)見目先輩は林先輩相手で一回見たことがある。確かに、まあ、…あれは怖い。
因みに演説会の日、霞と消えた新蒔大輔は1年10組の教室で担任共々俺たちを出迎えてくれた。荷物を取りに教室へ帰ったところでスタンバってた似鳥先生ががっつり捕まえた模様である。教師の方も新蒔の行動様式を先読みしているんじゃないだろうか。勤務時間のかなりの部分が対新蒔に費やされているような気もしないでもないが…。

残りの執行部は全員特進科だったけれど、1人は凄く固そうな人で、残りの2人は見目先輩の友人らしい。補佐に回る事務局へは普通科の生徒も結構当選していた。何にしても、うまくいくといい、とは思う。
大体の生徒は好意的だが、見目先輩の当選があの例の美形氏、山ノ井の応援故と陰口をたたく奴も、やはりというか居るらしい。見目先輩と山ノ井が親友同士(実際二人はそう見えたのだけれど)だったら別にいいじゃねえの。そういう風に言ったら、皆川が冒頭の話をしてくれたのだ。



喋ってみると、皆川 有輝はとても話しやすく社交的な男だった。大抵の事には反応があるし、数々の転校先での出来事を面白可笑しく説明するものだから、話し役半分、聞き役半分であっという間に大江家まで着いてしまう。およそ偏見というものが無くて、黒澤と仲良くなるのも分かる気がした。皮肉っぽいところが短所で長所、有難い事に突っ込み担当の模様である。大江家においては絶対的に突っ込みが不足しているから、まったく貴重な人材が来てくれたもんだ。


朝顔の蔓が繁茂する獣道を脱ける。もう少しすれば一斉に紫色の大輪の花が咲く。薄いピンクや白も奇麗だけれど、この近所に咲く紫と群青の朝顔が俺は好きだった。
背後から皆川―――みな、が言う。自分が斗与と呼ばれるのに早々と慣れた上、俺は皆川をみな、と渾名で呼ぶようになっていた。彼はそれをあっさりと甘受している。

「あの山ノ井ってやつ、見目先輩の友達なんだろ」
「うん」と俺は応えた。「凄く仲良さそう。あと、ユキも知ってるみたいだった。何か家がどうとか、って」

そうだ、黒澤も知っていたのだ。

「…備のこと気にしてたみたいなんだけど、備の奴は無視、ってか興味ございませんって素振りだったしなあ。―――あいつ、とんでもないこと言いやがって」
「とんでもない?」
「あ−、大したことじゃない。多分あれだ、生理だ生理。虫の居所が悪かったんだろうよ」
「…ハア?」

そんな訳あるか、馬鹿、と言いながら物干し場を通り、正面玄関へ辿り着く。みなは眼鏡を掛け直す―――掛け直す振りをしながら、すう、と後ろへ視線を遣っていた。

「……また、来てるぜ」
「……」

青々とした蔓が石塀を這い回る、その角。視界が怪しくなる付近に慌てて引っ込む小さな影が見えた。俺は嘆息し、みなはレンズを下へずらして裸眼でも繰り返し確かめるようにしている。

「クラス、一緒なんだろ」
「まあ、そうですねえ」とみな。「……一体、何の用でしょうかねえ、あの御姫様は」


…匂坂美雅。
特進科1年生のプリンセス、最近のブームはどうやら俺をつけ回すことらしい。



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