烏と鳩(5)



どうやら特進科は3種類+αくらいで生徒が分別されるようだった。

まずは普通に勉強したくて来た奴。家は金持ちだったり、一般家庭だったりする。奨学金制度は充実しているらしく、規模は小さいが学内寮もあるらしい。因みにここは既に定員で一杯だった。
次にスーパー金持ち。小遣いの額が高校生にして月万単位とかいうバブリーなご家庭だ。俺なら絶対に全額貯金に回しますがな。
その次、ウルトラスペシャルな金持ち。「今度の休み、僕の別荘に行かない?」とか宣う連中がうじゃうじゃいる。ポイントは「うち」ではなく「僕の」ってところだ。話していると常識の相違に笑いが止まらなくなることもある。
最後のαは前三者への分類不可能。因みに仲良くなったクラスメイト曰く、俺や備はこの『α』に放り込まれるらしい。

『だってお前は入学動機が不純だし、黒澤は……何であいつ下宿なんか入ってんの』

とのことである。俺は備のマネージャーでもお袋でもないので、何故あいつがそうしたのかは不明だ。一度、「斗与がいたから?」と冗談交じりに聞いたら、凄い目で睨まれた。南極で戯れるペンギンが見えた。

とは言え、備が斗与につるむ…いや違うな、なつく?癒される?まあ、そんな状況であることは一見して分かった。見下ろす目はとてつもなく和んでいるし、さり気なく支えたり庇ったりしているし。ぽつぽつと会話を交わす備の張った肩はほどよく力が脱けている。


備は春先にクラスで色々あったらしく、教室の中では大抵1人でいるらしい。孤高を気取っている奴はいるが、そんな奴らとは違う。畏怖されている。備自身の性格、っつうか態度も勿論だが、あいつの家に起因するところがでかいみたいだ。詳細は不明。必要が在れば、いずれ知ることもあるだろう。少なくとも俺の方は現状の付き合い方に不満はない。

多分、斗与や大江も備に対してそういうスタンスなんだろうと思う。

大江はとんでもなく背が高い、外見はキツい感じだけれど、その実、物腰の丁寧な、ほわんとした男だった。耳の下まで伸びた長髪は見事な金茶で、短い眉までしっかり色が脱けていた。目尻は後がぎゅっと細く、吊り上がっている。黙って立たせておいたら怖い風体のお兄さんたちに因縁付けられてそうだ。
引越の手伝いを申し出てくれた上、飯や洗濯のルール、連絡網のことなどを細々と教えてくれた。

「僕の携番とメアドは黒澤君が知っているから、良かったら彼から聞いてね」

彼が大家さんの手前の窓口になっていることは明白だった。柔らかな口調で、少し腰を屈めてにこにこと話すあたり、本人全く負った風がない。おお、なんていい奴なんだ。


心密かに楽しみにしていた斗与の方は、何処にでも居るような、小柄でほっそりとした普通の男子だった。別に女顔ではない。ただ清楚(男にこの形容が正しいかは不明だ)な、凛とした雰囲気があって、白道着紺袴に長弓でも持たせたら似合うような感じだった。声のトーンは見た目より落ち着いて、どちらかと言えばぶっきらぼうなくらい。しかも結構、発言に容赦がない。

「あんたもイロモノの一員なんだから、そこんとこよおく覚えておけよ」

と、初対面の相手に言い切るあたり、なかなかいい性格じゃないですか。
喋りながら、前の学校に居た友人のことを思い出した。見た目可憐で中身はロベスピエールな猟奇的学級委員長。黒髪美人な大和撫子なのに、口を開けば「人生は闘争だ」「惰弱者」などとはたかれたものだ―――若干、似ているような気がするぞ。恐ろしい。

別れ際、振り返ったら丁度、斗与が大江のケツに蹴りを入れているところだった。かなりいい音がしている。あれは口より先に手が出るタイプかもしらん。
備を見上げると、凝視の後、彼は前方へ向き直って無言になった。……あー、そういう関係性なんですね。理解理解。





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