烏と鳩(3)
「大江は確かにでかいし、斎藤は確かに…なんつうか、イイわ」
「……は?」
「うん、いい。名前、……とよ、だっけ。宜しく、斗与」
するり、と下の名前で呼ばれて、少し面食らった。彼はデフォルトが名前呼びなんだろうか。ちょっと吃驚はしたけど、不思議なことに其処までの違和感はなかった。
「えっと、そっちはゆき、か」
「…あ、僕のことは名字で、呼び捨てで呼んで。あんまり下の名前好きじゃない」
「そっか?」と皆川。うん、とてらい無く頷く。「オッケー。よろしく、大江」
皆川とユキが話し始めたので、俺は黒澤へ声を掛けた。既に平常モードである。どいつもこいつも、立ち直りが早くて羨ましいことだ。
「黒澤、『山ノ井』って知ってる?」
最近の俺は人捜しみたいなことばかりしているなあ。
匂坂のことも、そういえば黒澤に聞いた記憶があった。山ノ井については完全に興味本位からだけれど。何となくの俺の質問に、黒澤は意外な反応を示した。
あまりはっきりと表情の出ない顔に、躊躇うような色が浮かんだのだ。
「…演台で話した奴のことは知らない。…ただ、家は知っている」
「イエ?」
「山ノ井。旧くて、相当に大きな家だ。力も金もある。国の上の方やよそにも入り込んでる」
「…ああ…」
成る程。俺がイメージしきれない程度の金持ちであることは理解した。玄関に辿り着くために車が必要だったり、風呂にゲロ吐く金のライオンが居たりするレベルをも超越しているのだろう。でも黒澤、よそ、ってどこだ、よそ、って。
「外国のことだ」
「ああー…」
「見目先輩と知り合いだとは知らなかった」
「そうだな。うん、俺も驚いた。並んで立つと凄まじいギャップがあったよな。和洋折衷、っていうか」
「和洋…、」と黒澤。笑う。「確かに」
「あ、武士とイケメンのコンビ?面白かったよな、あの二人。うちのクラスでも大評判」
ユキと話していた皆川が、ひょいと顔を出した。幼馴染みは至って暢気な面構えをしている。どうやら大家と店子はうまく馴染めた様子だ。喜ばしいことである。
「武士って……、見目先輩うちの店子だからね。礼儀正しい人だから、変なこと言っちゃ駄目だよ」
「へえ、そうか。イロモノ大集合だな、大江家」
感心したように皆川は言った。
―――あんたも近日中にイロモノの仲間入りだからな、そこんとこよーく自覚しておけよ。
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