(6)



空戒の兄貴は是空(ぜくう)さん、範戒(はんかい)さん、と二人いるのだが、妹が嫁いだのは二番目の範戒さん。空戒同様、すごく気さくな好人物だ。ゆえに、基本的に彼女については心配いらないと思うのだが、誰あろう俺こそが友人に心配かけまくっちまっているので、そのあたりを解消しておきたいんだよな。
だって、藩家に妹を送り届けた後、空戒が遭遇したのは締め切られた花嫁の室と、切羽詰まった俺の絶叫なんていう居た堪れない光景だったろうから。扉は開かないように閉めたし、幸か不幸か俺自身が直後に意識を飛ばしちまったので、事の最中の嬌声は聞かれていなかったはずだ。…とはいえ、この間、忍んで逢ったときに、何が起きてしまっているのか、聡いあいつは察していると思う。藩の力を使って訴えを起こすとまで言ってくれた。そんな迷惑、とてもかけられない。
碩舎で毎日顔を合わせられたら。
そうしたら全部が全部、前と同じにはならなくても無用の心配はかけずに済む。伝えられないこと、取り繕う部分が出てきちまうのは避けられないだろうが、金ぴかの鳥籠の向こうで音信不通になるよりいい。

人懐っこい顔で笑う親友を脳裏に浮かべ、いっとき、気を和らげていたら、ぬっと差し出されたものがある。まじまじと見てしばし絶句。
で、花護のすましたツラに視線を移す。

「…なんだそりゃ」
「お前が着る袍だ。胡衣に仕立ててある」
「俺が言ってんのは柄だよちくしょう!…あと、その上に乗っかっているもんは…」
「お前は眩草の花精だから、眩草の柄を入れたんだ。それから、こっちは首輪」と、燕寿は平然と言った。
「兄上の伝手で作らせていたものがようやく出来たから」
「……………」

女郎花、と呼ばれる明るい緑味のある黄で染められた胡衣は、上着の襟と袖、袴の裾にそれぞれ釣り鐘状の花紋があしらわれていた。俺の髪の色に近い大人しめの色は、禁色である赤ばかり纏う、この男の選択とは思えない地味さだ。派手な刺繍や共布はなかったけれど、押しつけられた感触から、良い織りのものだと分かる。
一方の首輪は細いつくりになっていて、恐ろしいことに、黄金(こがね)で出来ているように見える。曖昧な表現になってしまう理由は、まともな金などお目に掛かったことがないからだ。月の欠片を削り出したような、艶のある円を描くそれは、留めがやはり眩草の花になっていて、紅と透ける黄の玉が一つずつ通されている。紅玉と黄水晶、と聞いて卒倒しそうになった。そして輪の本体がやはり黄金で出来ているのだと判明するに到り、泡を食った俺は衣ごと燕寿に押し返した。不可解、といった面持ちでこちらを仰ぎ見る男に吠える。

「ふざけんな、…いっ、い、い、意味分からん!」
「なんで」

どうして心底不思議そうに聞き返すかね!てめえは!

「こんなものよこされる意味がわかんねえって言ってんの!」

ひとつ覚悟していたのは、今着ているこっぱずかしい透け透け衣装で碩舎へ通え、と命じられることだった。変態の本領発揮、っていうやつ?燕寿なら言い出しかねない提案だろう。
倫に来て、これを着ろと渡された羅衣(らい)は主に女子どもや花精が身に纏ううすぎぬだ。外出がないから(そして他に着るものもないので)甘んじて受け取りはしたが、市中を歩けばいい晒し者だ。嫌がらせとしては最高に効く。勿論、俺に対しての。

「俺が?迦眩に嫌がらせ?…する訳ないだろ」

これまでの言動行動を遙か彼方の棚に上げて、花護はそう仰る。ここまで見事な棚上げはそうそうないな!

「その羅衣も悪くはないが、動きにくそうだし、何より膚身が透けるだろう。お前の体を碩舎の連中に見せびらかす趣味はないね」
「じゃあ、首輪はなんだよ」と唸りながら俺は言い返す。「こいつは俺の花精です、って公にしながら歩くようなもんじゃねえか」
「…それのなにがわるい?」



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