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お頼み申し上げます。
どうか、あの子だけは助けて遣って下さい。
兄も姉も、小さな妹までもが手に掛かりました。あやつが足蹴にしていた首を、わたくしはしかと見ました。
わたくしの良人です。どんなに血と泥で汚されていても、見誤る筈はございません。
わたくしは、助かりませんでしょう。覚悟していたことです。受け入れるというのではございません。ただ、何を賭してでも、子を守らなければという覚悟です。そのためならば、この身が八つ裂きにされてもかまわない。
高子は、世高(せいこう)は、知らぬのです。わたくしは伝えずに来てしまった。
あの子たちが誰より慕っていた叔父が、邸に火を放ち、親きょうだいを惨殺せし張本人だと。
義弟が姿を現したら、高子は助けが来たと思うはず。そうなれば、あやつは容赦なくあの子を打擲する。いのちをも、奪おうとするやもしれません。いえ、きっとそうするでしょう。わたくしに剣鉈を突き立てたときのあやつの眼。憎しみに偽りの生気を得た、あの男のおぞましい顔!
ですから、何卒お頼み申し上げます。この卑賤の女の祈りをどうか、お聞き届け下さい。
わたくしを黄泉の扉へ磔にしてくださいませ。
永劫の苦役をつとめる咎人のひとりにしてくださいませ。
その代わり、あの子のことはお守り下さい。どうか、どうか、お頼み申し上げます。
かみさま。いとたかき御方。群青(むらさを)さま。
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