(5)




いらえを返すことは躊躇われた。「けじめ」の意味が分からなかったからではない。道理をつけるのだ、と叔父は言っている、それは分かる。何において、どのようなけじめをつけたいのかがさっぱり分からないのだ。

ただ少年の思考の片隅にあるのは、母のこと。一向に姿を見せない、父ときょうだいたち。

人の死が影絵のように揺らめいている。
ごごん、と地響きに似た音をあげながら、邸の屋根が火焔に沈む。泣いて赦しを乞う声、鈍く何かを凪ぎ払う音。瓦が落ち、硝子は熱に耐えきれず、割れた。

「…か、かあ…かあさ…」
「…うん?」

『あなたはいい子です。大丈夫』
『必ず、いらっしゃいます』

「は、ははうえを…どう、なさったのですか…」

心許ない呂律を嘲笑うかのように、叔父は顎を突き出した。やや湾曲した片刃の剣鉈を振りかざす。くろがねに染みついた斑の紋様からは、生臭く、どこか甘い匂いがする。男が近付くにつれて、鼻腔を刺すその匂いは強くなる。胸のあたりがむかむかとして、今にも吐きそうだ。

「羅切(らせつ)という刑罰を知っているか。腐刑とも言うな」
「お、おじうえ、お答えを」
「男のしるしを切り取るのだ。…はは、馬鹿げた話だろう」

叔父は快活に喋った。楽しげに、まるで、庭の隅に生えた余計な草を刈り取るような動作をする。

「かつて神に仕える祠官どもは皆、己が手で男根を切ったのだそうだ。これを浄身あるいは、自宮と称する。羅刹は違う。こちらは罰だ。悪人が処される刑罰だ」

大股に数歩、それで視界は塞がれた。身を捩り、喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。
いやだ、やめてください。たすけてください。どうか、どうか。

「お前の母もそのように申していたぞ。蛙の子は蛙、流石よの。よく似ておる」
「澄鳴!澄鳴!やめて!放してぇ!」

花精は黙したまま、少年の手首をさらに強く戒めた。

「悪人の子は悪人の子だ。そうだ。悪人の子だからな。そなたが子を作っても、その子も罪科を犯すだろう。ならば、ここで根を断ち切らねばならぬ。命だけは、助けてやる。大人でも十に三は死ぬというが、…それは神が決めることだ」

股間がじわりと温かく濡れた。失禁したのである。さも汚らわしいと言ったように叔父の顔が不快に歪む。

「臭いな。まったく、…手間を取らせおって」

剣の切っ先が帯を引っ掛け、衣袍を乱した。下肢がずるりと現れる。
萎縮しきった小さなしるしを見、男はにやついた。羞恥と恐怖が代わる代わる少年の首を絞めた。既に喘鳴しか漏らさなくなった憎むべき兄の子を、勝利者の愉悦でもって見下ろす。

「精々、神に救済を祈るがよい」



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