その怒りを羨望すべきか(3)



一日の始まりは斯くの如きであった。
いつも通り新蒔はHRに遅刻して登場、似鳥先生と一緒に生徒総会の予定を朗読していた。ままあることなので、クラス全員、漢字の羅列ゾーン(カイチョウミセンシュツジニカイチョウダイコウヲイチメイセンシュツ、とかだ)でつっかえる新蒔を生暖かい目で見守っていた。

見目先輩に逢いに行くべきかどうか、と休み時間の度に考えたけれど、下宿に戻れば話せるのだとなると、決心も鈍った。逢って何を話すんだ、ってところが今ひとつ固まってない所為で臆病になっているのだろうか。
生徒総会で見られると分かったからか、新蒔から2年6組に行こう、と誘われることもなかった。単純に、似鳥先生と「染髪を主張する上での思想と信条」について語り合うので頭が一杯なのかもしれない。放課後、ユキと二人揃って化学準備室に呼び出されてしまったのだ。検討を祈る。

平穏が破られたのはその、放課後のことだった。

「お前が余計なことを言うから僕まで」
「いいじゃねえの、地獄の果てまで一緒に行こうぜ」
「絶対厭だ」
「オレ一回言ってみたかったんだよね、このセリフ!」
「一人で行け」

とまあ、そんな遣り取りをしながら友人二人が去っていった後で、やれやれ、と大人しく下校しようとしていた矢先だ。
野外プールはまだ寒い、海開きだってまだだけれど、久しぶりに泳ぎたい気分だった。自転車で行ける場所に屋内プール付きのジムでもあるといいんだけどなあ、と思いつつ、昇降口に着いたところで、名前を呼ばれた。

「斎藤斗与。……話がある。今すぐ付き合え」
「………」

忘れていたわけじゃない。いつかは来るかもしれない、と思っていた。
夕日がすべてを支配する時間、並ぶ下駄箱の脇に、少し前とは比べものにならないくらい、昏い眼をした少年―――匂坂が立っていた。



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