(4)
起きうる未来の話であれば、対処は必要なんじゃないかと思う。死ぬの生きるのだなんて俺たち自身には手の打ちようがない内容では、あるけれど。
すぐには切り替えられなくて、もやもやと悩んでいたら、額にごつん、と固い感触が降ってきた。彫りの深い、精悍な顔は牙に似た犬歯を見せるようにして笑った。至近距離まで高さを下げた涅色の目に、不審そうな表情の俺が映り込んでいる。
「いいや、ムダだね。お前はなァ、伎良。外でも閨でも、枯れちまうまでオレにさんざんこき使われるって運命なんだよ」
「うっ…」
悲しいかな、そちらの方は容易に想像がついた。想像どころか現実だ。
色を変えた俺に気付いたのか、彼の笑みは深くなる。
「オレのつがいになったのが運の尽きだったな」
「それは前から知っ、て、ん…」
強ばった口脣に、肉の弾力を備えたものが押し付けられる。一度きりで終わるかと思いきや、頬にふれた手が角度を変え、幾度も食まれた。溜まった唾液を飲み下す。割と大切な話だと思うのに、こんななし崩しにしてしまって良いのだろうか。
青い衣袍の胸あたりを掴んでいた手はどうにも正直だ。一方で逡巡を続けながらも結局は、広い背中を抱き締めている。
姶濱の前だった、と俺が正気付くまで粘膜をすり合わせる行為は繰り返されて。
「…お前がくたばったら、その後なんて、」
オレは、と。口脣がしっかり濡れた頃、周霖がぼそりと呟いた。
「…?」
聞き逃した俺は、首を傾げる。俺が死んで、それで?
「…なんだって?」
花護の口の端がすう、と吊り上がる。少し、肩を竦めてどうでもよさそうに笑った。
「なんでもねえよ。…おい、逃げんな」
「駄目だ、姶濱に怒られる」
「あァ?…ざけんな、んなわけねえだろ。墓石引っこ抜くぞ」
「おい!」
本気にしやがって馬鹿か、と今度は、高らかに笑声を上げた。蒼白になって、相手が咳き込むほど平手で背をばしばしと叩く。周霖の冗談はいつも質が悪いものばかりだ。
この体が焼かれて骨になる。俺がその守(もり)をする。黒々と水を吸い込んでいく土。濡れる柳の葉。
(「…だめだ…」)
やはり、想像できない。
周霖は考えるな、と言った。
今は彼の言葉に甘えようと思う。そう決めて温かい体躯を引き寄せ、痛む頭と心を埋めた。
>>>END
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