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俺の混乱をあざ笑うかのように―――そして、己の言葉を証明するように。
家の権勢を笠に着て、脅しを掛けてまでして、あいつは、俺を連れてきた。
さっきから転がっている寝台も、この上品かつ洗練された部屋も、身に纏っている羅衣ですら、すべてすべて、あいつの、ひいては、倫家の持ち物である。


ぶっ倒れて、起きたら燕寿の家だった。
今日から、お前の寝起きする場所は此処だ、と言われた。


昏倒している間、正朱旗の御曹司と養父母が出した結論はつまり、妹の代わりに俺を嫁がせる、なんて愚考に落ち着いたのである。
持ち主に遅れること一日二日、ご丁寧に少ししかない私物も運び込まれてきた。
お世辞にも心安らかに生活できるところじゃなかった。…それでも、あそこは俺の家だったんだ。
親父とお袋が死んで引き取られて、約六年ほどの年月だったろうか、必死に居場所を作ろうと奔走していた時間も努力も、ものの見事にパアになってしまった。

てめえは一体何様なんだ。俺はもう帰る、と出て行けたらどんなにすかっとするだろう。
でも、同時にこうも思う。
燕寿の命令を聞くか、自害の上、家を取り潰されるか。いみじくも、あいつが剣鉈を抜いて言ったように、どちらかを選ぶしか無かったのかもしれない、と。夏渟で最も権勢のある旗人を謀るということはそれだけの事だったんだ。


奴自身の告白に拠れば、妹(相手は俺にすり替わったわけだが)との結婚は、ひとえに、倫家に己以上の跡取りを残す目算ゆえだ。
金持ち特有のしがらみが厭なのか、隠居願望でもあるのか、倫の御曹司は是が非でも家を出たいらしい。そんなの知ったこっちゃねえよ、てめえの都合に俺を巻き込むんじゃねえよ、と言ってやりたいし、実際に言いもしたが、見事左から右の耳に聞き流された。倫家の人間はとかく話を聞きやしない。
あ、倫旺さんだけは別。燕寿の兄貴は優しくて、本当に血の繋がりがあるのかよ、ってくらいの、善良を体現したみたいな人だからな。

とにもかくにも、大騒ぎの上せっかくお連れ頂いたわけだが、俺はどう逆立ちしたところで燕寿の役には立たない。
つがいにもなれないし、子どもも産めない。金なんてあいつの方が余程持っているし、シモの欲求不満を晴らすのであれば、幾らでも相手がいる筈だ。つまり完全無欠の役立たずってこと。
どうして俺を連れてきた、と聞いても「妹の幸せを守るためなら易いものだろう」と一蹴される。いや、てめえが首突っ込まなければそこは波風立たなかったところなんだっつうの。いつかはきちんとした答えを知りたいが、―――納得のいく回答なんて、はなから有るはずもない。
だって、そうだろう?どんな魔法の言葉があれば、今の境遇に納得できるんだ?




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