(17)




「あ、あああっ、いや、だ、やめっ、やめろ!」

喉を鳴らして奴は、事もあろうにべろべろと全体を舐め始める。片手をちんこに添え、もう片方の手を燕寿の黒髪に絡めたまま、身も世もなく喘ぐ。全身がかっかとして、訳が分からなくなって、尻を犯す指の数なんぞ最早覚えちゃいなかった。あった筈の違和感ですら、噛みついた後、やわらかく口脣でくるまれる感覚の前に平伏していた。

「随分やわらかくなってる。これならいけそうだ」

ちゅ、と音をたてて、僅かに頬を朱に染めた花護が顔を離す。あるかなきかの変化に見入っていると、奴は俺を見上げてうっすら笑った。手の甲が口元を撫でていく。

(「…ああ、」)

赤ん坊かよってくらいに涎垂れまくってるもんな。いや、赤ん坊じゃなくて犬か。熱くて
舌ベロ出してはあはあ言っている、犬。その犬に向かって、男はかくら、と声を掛けた。

「そのまま、前、弄ってろ…」
「ま、まえ…」
「ここだよ」

膚の色の違う手が、動作を休めていた俺の手ごとちんこを握った。びくん、と全身が震える。ひたすらに冷たい印象のあった奴の体は、そうと分かるほどに体温が高くなっていた。

「は、あうっ?!」
「っと、まだイくなよ」

口早に言われて、せりあがる涙の勢いが限界一歩手前まで来た。

「あっ…、ああっ…」

前触れもなく尻に突っ込まれていた指が抜かれる。
尻の穴が収縮して、何かが漏れ出ている感じがする。多分、塗り込められていたあの牛酪もどきだ。体熱に反応して溶けるように出来ているのだろうか。何にせよ、漏らしているみたいで気持ちが悪い。力を入れて、蕾の口を締めようとした。で、すぐさまやめた。腹に力を込めた途端、燕寿が押し込んでいた内側のしこりに似た、不吉な熾火が発生したからだ。

イけない。でもイきたい。ケツは気持ち悪い。早く手を放して、さっきみたく好きにさせて欲しい。

「…な、う、ウソツキっ…」
「…え?」と、燕寿。

呆気に取られた表情は若干幼く見えた。だから余計に、そう、余計に、余計な一言が出たんだ。俺はぐずぐずと呂律の回らない口で必死に喋った。

「…って、さっき、いっていいって、言ったじゃ…」
「…――。…あー…」
「んっ…」

離れていた黒髪がぼす、と裸の胸に埋まる。そこにはなにもないぜ。男の証明たる平原が続いているだけだ。だが、そんなことは知ったこっちゃねえとばかりに燕寿はぐりぐりと頭を押し付け、俺は嬌声を上げ、仰け反った。


「迦眩、今のもっかい言って」
「えっ…ハアッ?」

なんだって?
軽く口脣を当てるだけの口付けを繰り返しながら、あの熱い手が俺の腰の左右を支える。奴のなすがままにぐっと体が浮き上がり、かつ、前にのめった。慌てて奴の両肩を掴む。掌は言わずもがなの状態で、仕立ての良い正朱旗の上着に新たな汚れが追加されたが、気にする余裕なんぞ皆無だ、皆無。

「今の、って…」
「あの、嘘吐きってやつ」
「…は…」

ひとみと虹彩が限りなく近い、漆黒の双眸はうっとりと濡れている。うん、そうだった。こいつ変態だった。
だが、愛しているだの好きだのなんていう台詞を言わされるよりかはなんぼかマシだ。大っぴらにこいつを罵倒出来るんだから、むしろどんと来いって感じ?碩舎の成績はアレでソレだが、お前を罵る文句だけなら誰にも負けやしない。

「う、…ウソツキ!人でなし!!」
「…ふふ」

何が可笑しいんだ、気持ち悪りぃな全く!でも俺は言う!言うぞ!

「ま、マジ一遍死んでこい、っは、こっ、この変態!」

ひたり、と固いものが後孔に触れる。瞬間、穴がきゅん、と締まった。

…ついに涙がこぼれた。


「え、え、燕寿の、」


意思を裏切ってそんな風に反応しちまうのがとてつもなく厭だったし、次に起こることを、ただ一回の経験だったけれども想像出来たから。

「えんじゅのっ、嘘吐き―――ぃ、いいあああああッ!」
「うっ、く…」

これはもう密着とは言わない。
愛撫によってほぐされた縁には、相手の牡が突き刺さっている。俺という人格を犯すに足るだけの、精を湛えた嚢の感触すら分かる。

「ッ、はっ、…はッ、は…、…」

あまりの衝撃に、「座り込んだ」まま、もう悲鳴も途切れてしまって息をするのが精一杯。
低い、吐息のような唸り声に被さった、己の体躯が裂かれる音を聞くしかなかった。





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