(16)



「迦眩、…もう少し上に行け。…いや、」

脇を支えられて無理矢理に上体を起こされて、視界がいきなり不安定になる。白い枕、ぬばたまの黒髪から距離が出来て、再び跨る格好になった。違いがあるとするなら、今度はべったり座り込んでいるということ。支えを探して彷徨わせていた手が掴まれ、ここだろう、と見当違いの場所に導かれた。ぐしょぐしょに濡れて、張り詰めた二人分の性器に。
気持ちよさと情けなさに涙が出そうだ。すると、奴までもが「よいしょ」とらしからぬ掛け声と共に背を起こした。長座をする燕寿にのっかっている俺。しかも向かい合わせ。なんなのこれ。

「…こっちの方が良く見えて、いい」

今すぐこいつの口を塞いで一生黙らせたい。
だが、そんな俺の望みは叶う筈もなく、むしろ状況は悪化の一途を辿りつつある。限界まで膨らんだちんぽが辛くてしんどくて、一番呪うべき相手に視姦されているにも関わらず、手が動いてしまうのだ。
そんな俺の手つきに合わせて、奴は後孔に挿入した指を蠢かせた。抜き差しを繰り返したり、腹側の一点をゆっくりと押してみたり。妙なことに、そこを押し込まれると根元が変な痺れ方をする。やばい、と根拠もなく思う。
腰をよじり、指のあたるところを交わそうと試みた。途端に筆舌に尽くしがたい痛みが全身を襲う。

「んあっ、い、った!いだっ!」
「こら、暴れるなよ」

燕寿は呆れたように言って、浅いところを掻き回す動きに変えてきた。俺は俺で、激痛をごまかそうと幹を擦るのに意識を傾けた。それが相手の思うつぼだってことも知らないで。

「ん…っ、ぐ、うっ、ふっ、ふうっ」

ぬるついたそこは水が滴っているみたいに楽に動いて、後もう少し集中できればイけそうなところまで来ている。

「あっ、いい、んっ、う、う、…くそっ、うう」

腰の振りを激しくすると、ぬっちゃぬっちゃと泥を掻き回すみたいな音がたつ。
燕寿なんていなくて、自慰をしているんだと思い込めればいい。さっき浮かんだ危険思想に流されてしまいたくなるくらい、きつい。
…射精、したい。

「いきた、い、…んん、うッ、あ、はあっ、」
「おいこら、…っく、ひとりで遊んでんじゃねえよ…」

脚を拓き、あばらの浮いた胸を弓なりに反らす。股の間からそそり立っている己自身は先が赤く熟れている。口なんてぱくぱく開いて、今すぐにも白い唾液をはき出せそうな勢いだ。さらにお涙頂戴の眺めがすぐ近くにある。赤黒く、半濁の精を垂らしているものが―――俺のよか、倍はでかいものが寄り添うように勃ち上がって、俺の手によって着実に育てられているのだ。

「まあ、気が逸れてる方が楽なんだけどさあ」
「あんっ?!」

先ほど散々弄くった乳首に口付けられて、気色悪い声が己の喉からほとばしった。一気に赤くなった俺を見、奴はにやにやと笑う。赤い舌先が褐色の突端に触れる。

「んうっ」

またしても、全身に電撃が浴びせられたような感覚が奔った。舐められて、噛まれて。引っ張られて悲鳴を上げる。
痛みよりも快感が勝りつつある事実に愕然とした。先っちょを歯ですり合わせられる段に至って、感じすぎる怖ろしさのあまりに思わず奴の後頭部を片手で押さえつけてしまった。…よりによって俺自身の胸板に、だ。



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