(13)
握った性器を擦り合わされて語尾が悲鳴に変わってしまった。
いっそ口を開かない方がいいのかもしれないが、状況が鼻呼吸で間に合う域を超えている。
「…ふ、っ」
ひっそりと眉を顰めた花護は悩ましげな表情だ。切れ長の双眸はあからさまな熱を含み、赤い舌が渇きを宥めるかのように、口脣を舐めた。
欲情されている、と、分かってしまって戦慄した。マジでこいつは頭がおかしい。同性の、しかも俺をそうした対象として見られるんだから、お前一回生まれ変わってきた方がいいぞ。
「生憎と今の境遇にそれなりに満足しているもんでね。取りあえず死ぬまではこのままで構わない」
おーおー、そうだろうよ。ならば一遍、死んでくれ。
「…腰を浮かせろ」
「は?」
「腰を、浮かせろ」
きれいな、皺ひとつない口脣が弧を描いて、喋る。前段の文章と後段の文章に何ら関連性が見出せず、思わず聞き返してしまった。
理想的な美形が、俺の理解の範疇を超えた内容を喋くっている。幾度聞いても同じ事を言われそうだったので、四つん這いでのろくさと腰を上げた。その瞬間。
「んうっ!」
「…っ」
引っ張りだされていた俺のアレと、視認したくもない燕寿のブツが重ね合わされて、勢いよく扱かれた。乾いた掌。指の根元、胼胝(たこ)になっている所が毛羽立っていて、固くて。俺の幹はあっという間に湿り気を帯び始めた。
「あっ、い、やっ、やだっ」
慌てて、燕寿の手を振り払おうと片腕を伸ばしたが、あえなく掴み下ろされてしまった。代わりとばかりに口づけてくる。
首を伸ばし、胸を反らして男の体を跨いで。
まるで、俺から襲っているみたいな姿勢だ。
(「…こんな、…厭だ…!」)
「ん、っふ」
「…はっ、…かくら…」
「…!…っう、ん、」
呼吸をするたびに舌が入ってくる。相手の肉が自分のそれに絡まって、中を、余すところなく舐め回された。厭だ、と腰をしならせて退こうとしたら、俺の体の下を潜っていた手がしゅ、しゅ、と上下の動きを激しくする。
「ひっ…!!」
「ほら、…気持ちいいだろう?」
ごりごりと、エラの根元に切っ先を押し付けられる。灼けた石みてえだ。二つが合わさる度に、粘着音が酷くなっていく。
大人しく腕を己の身体を支える為に使った俺を認めて、もう一方の奴の手が動き出した。袴子(ズボン)から女がよく持っている化粧道具みたいな、丸い陶器の容れ物が現れる。
俺に口づけをしたまま、陰茎を弄んだまま、奴は器用にそれを開けた。微かに百合の香りがする。婚礼道具にあった、錬り香みたいな匂い。でも、多分別物だ。
段々追い立てられはじめた頭でも、あまり歓迎できない品だってことくらいは、分かる。
俺は小さく首を振った。目尻に涙の気配があって、また、悔しさが増す。
「…な…だ、それ…っ」
「さあ?なんだろうな。今に分かるよ。―――…それより」
「ん、はあっ!」
ぐり、と嚢を揉まれる。反射的に喉が開いた。
苦しい。苦しくて、―――気持ちいい。頭がぼんやりしてくる。
空気が欲しくて口を開いているのに、次第に、奴の舌を迎え入れるために口を開けているような気分に陥った。思ったように燕寿が来ないと、つい、顔をのめらせてしまう。
「くっ、ふ、…んちゅ、」
形の整った口脣の、下を噛んで。そこから潜り込んでいる相手の舌肉を引っ張り出す。詰め襟の喉が、ごく、と蠕動したように見えた。
「…意外に物覚えがいい…」
感心した様子の奴の声が、何処か遠い。
そして、痛みを感じるか感じないかの手前、絶妙な力加減で扱かれる下肢にぬるったいものが掛けられた。牛酪みたいな、固形物。俺と奴のアレにくっつけて、ぐちゅぐちゅやっている間にどろりと溶けた。二人分の先走りに混じって、水音がさらに激しく耳を犯す。
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