(12)
「…っう、」
(「…イヤだ…!」)
びくびくびく、とあらぬところが細かに震える。どこか、とか、なぜか、だなんて考えたくもない。いっそ忘れていたならよかった。喘ぐ呼吸に、気持ち悪く裏返った声、相手に応じるように揺らした腰の動きすらも己の身に鮮やかで、…自分自身を殴りたくなる。
硬直した俺へ、奴は追い打ちのように言ってのけた。
「…お前の可愛い妹は、…今頃藩家のしきたりでも習っている頃合いかな」
「!!」
逃げを打とうと、燕寿のそれからなるたけ離れようとしていた体が、硬直する。黒い目は俺の動きを興味深そうに下から観察していた。
視線を固定したままで、奴の手が突き出した格好の尻をするりと撫でる。追い掛けるように一斉に鳥肌が起ったけれど、突き飛ばすことも逃げることも叶わない。
「…っは、物分かりがいいな」
(「…クソ…ッ!!」)
歯噛みをしながら、ぶるぶると憎悪に体躯を震わせながら、結局は燕寿の脅しにこうべを垂れる、しか、ない。
妹の為、と思えば何でもできた―――そうと思わなければ、きっと耐えらない。
口を噤んで、膝で立ち、ゆっくりと腰を持ち上げる。すると、奴の眼前に堂々と(物凄く不本意だ)下肢を晒す格好になる。白い布地にくるまれた俺の息子は当然大人しくなっていて、解放されたのをいいことに、両手でそこを隠した。間抜けた体勢だけれど、ガン見せよか遙かにマシ。
睨み返すほどの度胸はなくて、俯いていると、遠慮無く浴びせられる眼差しを感じた。
「迦眩、お前は、」
「…」
やけに感慨深い声が妙だ。僅かに興味をひかれ、目玉だけ動かして上目遣いに花護を見る。
「そうやって、妹をダシにされたらなんでも言うこと聞くのかよ」
(「…ハァ?!」)
率先してダシにしてる張本人が何を言ってやがる。
好きでこんな所までのこのこ付いてきた(正しく言えば拉致られたも同然だったけれど)と思っているのか。幾ら顔が良くて金もあって、将来が嘱望されてるからって同じもんがついた男なんぞに、喜んで犯されると思うか?!
そう、力いっぱい反論してやりたかったが、出来なかった。
事実、脅迫されていたから強く出られなかったというのは、ある。それ以上に、燕寿の表情がおかしすぎたんだ。
「…っ、…あ…」
うまく、言葉が紡げずに俺は呼吸半分声半分、みたいな間抜けた音を漏らした。
燕寿は、まさに奇異、という表現が相応しい顔をしていた。
こいつの端正な容貌は、憤怒や、投げかける侮蔑すらもうつくしく見せたものだ。
まじまじと凝視する俺を、あろうことか、男は慈しむような―――愛おしそうな表情で、見つめていた。
紅蓋頭をはらいのけた正体が俺であったのだと認めた、あの初夜の日のように。
「………難儀なことだな」
いや、だから、難儀の原因はすべからくてめえなんだよ。
素で突っ込もうとした瞬間、燕寿は俺の組んだ手をはらいのけた。下着を造作もなくひきずりおろし、中身を、まるで当たり前のことをするかのように引っ掴んだのだ。
「う、あっ」
「萎えたまんまだな」
当たり前だろ!!こんなんで勃ってたら、てめえの異常さにひけを取らんわ!
「…ふうん。…俺は、異常か」
「あ、ああ。おかしい。くるっ、ん、や、やめっ!」
ぐっ、と力強く手首を引っ張られてあえなく奴の上に倒れ込む。流石に相手の胸板へ掌底をぶち込むことは躊躇われた。仕方なしに覆い被さる格好で寝台へ手をつく。
掴み出された俺の陰茎は大きな掌に包まれたままだった。じたばたしているとそこに固くて、熱くて、どくどくと脈を打つものが添えられた。
「―――!」
正体を確認するのが怖い。怖すぎる。で、枕に背を埋めた相手を愕然と見遣る。
「ん…やっ、あ…、く、いやだ…」
眼下で寝そべる燕寿の口が、小さく動いて、笑みの形に歪む。ばかなやつ、と読んで取れて、赫と、なった。
「…は、っ、色が白いとすぐに分かって面白れえ」
「クソ、おもしろいとか…ほざいてん、っぁ、ああっ」
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