3.輕子と城崎と立待




「輕子」
「なに」
「輕子がさ、今までで一番恥ずかしかったことって、何かあっか?」
「……マチ」

「うわっ、なんだよ」

「そのICレコーダ止めて」
「…ばれたか…」
「一体全体どうしたの、キノ。そんなこと、いきなり聞いてきて」
「輕子目つきが怖ええよ」
「黙って。…キノ」
「う、いや、その、…十和田が」
「…それ以上言わなくても、もう分かった。十和田のやつがまた変な事言い始めたんだろ」
「またよりにもよって恥ずかしい話とか、どうしたんだろうな。『ごきげんよう』でも始めるつもりかね」
「…『ごきげんよう』?」
「あ、立待、こいつテレビとか全然見ねえから」
「そうなん?…まあ、俺だってザッピングしてるときに見るか見ないかくらいだし…」
「マチの恥ずかしい話って、なに」
「ちょ、輕子!お前自らその話題切って捨てといて、唐突に拾うとか!何!」
「しかもレコーダ持ってるし…」
「いつの間に…」

「キノもマチも、人のことだけ聞いて自分はだんまりって、不公平じゃね?俺の、聞くならさ、言いなよ」
「…お前一言たりともゲロしてねえじゃん…」
「…キノ、何か言った?」
「いいや、別に」
「ほら、じゃあまずはマチから。言い出しっぺだし」
「集音穴こっちに向けるってどんだけ!…分かったよ、言うよ。聞いてがっかりするなよ」
「しないしない」
「二回言うと説得力が減るぜ、輕子」
「で?」
「…割と最近なんだけれど、生徒総会の就任演説でさあ…」
「あ、もしかしてあれ?あのキーンってやつ」
「ええ、ええ、そうですよ。前に喋った美化委員長の阿呆がマイク入れっぱでさ、…俺が頭下げてマイクにごん、講堂じゅうにキィイイイインって毒電波が…」
「しかもそのときの立待の雄叫びったら無かったよな!」

「「ウホオウッ!」」

「ジャングルの王者ですか的な」
「まるでゴリラだね」
「…覚えてんならわざわざ言わすな!つか無駄にハモっちまっただろうが城崎!」
「一人で言うよか恥ずかしくなかったろうよ。友情だ、友情。しかし、人間さ、咄嗟のときには自分でも想像出来ないような声が出るんだな」
「俺の先輩、…前の放送委員長なんだけれど、有事のときにまともな叫び声が出るように訓練してたぜ」
「マジかよ」
「マジマジ。強迫観念か、ってくらい何でも練習しちゃう人なんだよなあ。…おい輕子、なんだよその無表情っぷり」
「普通すぎてつまらなかったよ、マチ」
「うっせえな!しょうがねえだろ、そんな大々的に恥かく程大舞台に出たこたぁねえんだよ!凡人舐めんな!!」

「―――はい、じゃあ次、キノ」
「……(絶対面白がってるなこいつ)」
「俺が言ったら、…輕子も、言うのかよ」
「お前が聞きたいのなら」
「…よし、…なら、いい。…いや、先週の日曜なんだけど、」
「また随分最近だなあ!」
「うっせ。…商店街ぶらついてたらクソの白柳とかち合っちまって…。あいつは月下と一緒だったんだけど」
「おお…」
「先に気付いたから、…面倒くせえし?知らないふりで躱そうとしたらさ、クソが目聡く見つけやがって。何考えてんだか、おーいおーい呼び始めたんだよ…手まで振りやがってよぉ…」
「…おい、城崎。シャーペン曲がってんぞ…?」
「言っておくが俺はサルじゃねえ!おサルさんじゃねえんだ!人がうじゃうじゃいるところでサルサル連呼すんじゃねえよクソ柳めぇ!」
「いらない導火線に火がついたみたいだぞ、どうする」
「キノ、思い出し怒りは身体によくないよ。…って聞いてないか。…仕方がない」
「他にもあんぞ!先週の水曜の五限、生物の授業だってクソ野郎が…」
「…城崎の恥の歴史って、すべて白柳由来みたいなんだけれど、俺の気の所為か?」
「聞きようによっては白柳大好きみたいだよね。本当は久馬大好きなのにね」
「因みに輕子さんベストオブ恥ずかしいで賞は、何でしょうか?」

「ないよ」
「はぁ?」

「―――…ない。そんなもの」
「大体、あの変態眼鏡はよぉ、高等部の始業式んときから…」
「あれ、悪口のバリエーションが増えたみたいだ。…白柳に聞かせてやりたいな」

(「…この確信犯め…」)




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