(3)



「僕は、花とか、そういうの、詳しくないんだ…。前も言ったじゃないか」
「だから聞くんだよ」
「なぜ」
「理屈は無しで、印象でさ、答えて。実は目につく度、ちょっとした諍いの種になりつつある」

心底うんざりしているのか、友人の物云いは乱暴だ。比例するように、脇にあった手が不埒な目的を帯びた。
胸へ、乳首―――へ移動し、頂をかり、と爪で弾く。首筋に口脣を押し付けられた。

「ん…っ、あ、あ…?!」

じれったい感覚に蕩けかけたところに太股へぐり、と擦り付けられたものがある。一瞬にして正気に返った。
硬くも熱い、血の通った肉の感触を感じさせる徴が、棒きれのような、貧相な脚に触れている。熱の正体におののいた。それは、数時間前まで自分の体躯へ収められていたものだった。
理性の手綱を失って、彼を受け入れ腰を振っていた己が醜態が蘇る。真赭の後孔は白柳によく馴染んだ。ぐちゃぐちゃと下品に舌鼓をうち、出ていこうとする彼を阻んで、肉の筒を締めすらしたのだ。

「は…あんっ、は、答え…、云う、云うから…っ!」
「うーん…、でも聞きたくない気もするしねえ」

どうしよっかなあ、と呟く声に、逃しがたい欲情の色が滲んでいる。彼の悪い癖だ。問うておいて、いざ返事をしようとするとなし崩しで黙らせに掛かるのだ。細く狭い瓶に液体が満たされるみたいに、真赭の中に答えは溜まる。そうして、白柳のことしか考えられなくなっていく。
太股から、中心に。雄同士を無遠慮に擦り付けられた。鬱屈を晴らすような仕草に、ついに耐えかねて悲鳴を挙げると、彼は哄笑った。

「は、こやなぎっ…!!」
「…うん、やっぱ止めた。ねえ、まだ、早いから…もう少し、遊ぼうか」
「あっ、…だ、駄目、いや…だ、」

ぎゅう、と目蓋を閉ざし、睫毛を濡らして溢れる涙に構わず、さらに強く強く力を込めた。


空を割って伸びる黒い樹冠。その中に隠されたいのち。花をつけることのない枝。彼らはもしかしたら、己が盲枝だとは知らないのかもしれない。いつかは咲くときが来る筈と、水を吸い、日を浴び、蕾を持つ他の枝すらも犠牲にして生きているのかもしれない。

可哀想とは思えないのだ。その貪欲さが、当たり前に生きるしたたかさが羨ましい。真赭はすぐに諦めてしまう。諦めて、此処まで来てしまった。


友人の掌が、あのきれいな、ほっそりとした指を持つそれが、友人という立場を裏切る手つきで股座を撫でた。乾いた気管がひい、と鳴る。
夜半に衣服を奪われた下半身は、何も身につけていなかった。ばかりか、どろりとした白い汚濁を纏わり付かせてすらいる。真赭と、白柳。二人分の情欲の唾。

されるがままにまさぐられながら、真赭は理解した。顧みられることなく咲いて終わったあの花のように、友は、盲枝も愛しているのだろう。
ものの好悪には、故があるものとないものとが存在する。理由は、きっとあるのだ、と思った。太股の上でシャツが乱れ、陰茎が引きずり出された。甘い痛みと快楽に尻が浮き上がる、そのタイミングを逃さずに奥へ指が潜っていく。

「あ、っは、…う、んっ…!」

真赭、と呼ぶ声。狂気じみている。
白柳は、げっそりと浮き出た鎖骨に口吻を繰り返す。飽きることなく、幾度も、幾度も。

「もし、君が結実しなかった想いすらも憂えてくれるのなら、…それを無駄だと云わないのなら、俺は」

返事は、しなかった。できなかった。熱に翻弄されているからだと、自分に弁明する。会陰のさらの下から、くちゅり、と卑猥な音がする。それは真赭の身体だ。ひびの入った喉で嬌声を挙げているのは己だ。股を開き、覆い被さる彼を受け入れやすい体勢にしているのも、犯されることを良しとしてしまったのも。犯人は彼じゃない、真赭自身。
想いを抱くことは必ずしも罪じゃない。愚とすべきは、花のない枝に真実を告げないことこそだ。
真赭がしでかした二重の失態は、臆病さと怠慢である。

「い、…あっ!――あっ、あっ、はん、ああっ!」
「はっ、はあっ、ふ、…すっげえ、」

侵入する、種子は根を張って全身を絡め取り、身動きを奪っていく。
何も見えない。でも、目を閉じれば同じだ。外はまだ暗く、黒い視界には微かな残像すらも映らない。
ぎくしゃくと曲がる脚を、強く突き上げてくる腰へと絡めた。素肌が化繊に擦れる。絶え絶えに彼の名を口にすると、中を掻き回すものの太さが増した。白柳の髪が垂れかかってくる。好きだ、と盲いた枝が囁きかけてくる。





―――なにも、見えない。




>>>end


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