(7)
そんな最高機密っぽいこと、ばらしていいんですか!第一、聞きたくもねえし!
「送り込んだ刺客は軒並み返り討ちにあっておりますがね。…小物は、己の花精を、地位をつなぎ止めるのに必死であるらしい。戦のない世の中です、平和惚けを防ぐには格好かもしれませんが」
「俺は、平和が一番だと思います…」
「何か?」
「いえ、何でもないでーす」
もういいや。好きに喋らせておこ。
白い花精は、ここでようやく袖を降ろした。不機嫌そうに固く結ばれた口脣が現れる。お約束のように、皺一つなく、きれいな淡い色をしている。
月並みな表現しか出来ないが、本当に、きれいだ。幾ら男だってこんな奴が来ちゃったら、俺が奥さんならへこむね。燕寿の兄貴だときっと美形だろうから、まず旦那が敵か。全く厭な家だ。
「―――では、三つ目」
「あのお、まだ続くんですか…」
答える度に失態を重ねるのは誰だって厭だろう。俺だって厭だ。それにこれ、試験でもなんでもねえし。清冽さんに大人しく従う義理はないと思うし。
勝手にべらべら喋りまくられるのはまだしも、こちらが口を開く度に幻滅されるのは微妙。
それでもって、彼は、逃げを赦してくれるような相手じゃなかった。何せ、燕寿に俺を殴って良い、と言われて平然と「承知した」なんて返事をした花精だ、俺の心中など察してくれるわけない。
尖った顎が心持ち上がり、睥睨するような視線を受けた瞬間に、断念した。駄目だこりゃ。
「続けます。…これが、一番重要にして最後の問いです。終わり次第、我々も客間へ向かいます」
「はい」と俺。続けてもう一回言いそうになって、慌てて口を閉じた。
冷たい視線をたっぷり感じながら天蓋の柱を支えにして立ち上がる。筋肉痛は動かせば動かすほど直りが早くなると聞く。これもその一種なら、要は気合だぜ。
靴は―――寝台の足元に転がっている。あれだけは裳に隠れるからと自前のものだった。先ほどの燕寿と清冽さんの遣り取りを反芻するに、男物の服を取りに自室へ帰りたいという望みは、到底、受け入れて貰えそうにない。
「…行きますよ。で、質問って何ですか」
「貴方は、花精として嫁ぐのですか。それとも、妻(さい)として、燕寿さまに嫁ぐおつもりですか。選びなさい。…これは、彼の御方からのご指示です」
「………」
「お答えを」
「え、あの、ですね。ちょっと聞き取れなかったんで、もっかい言って貰えますか?」
耳まで遠いのか、と花精はごちた。咳払いをひとつし、居丈高に背を反らして彼は、問いを繰り返したのだった。
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