キャストパズルの謎



生徒会の宿題なんだ、というレポートを肘下に敷いて、整った形の指がぱちぱちと電卓のキーを叩く。僕はそれをぼんやり眺めながら、まったく白柳は器用だなあ、と感動していた。彼の持ち物や動作は、どれもこれもよく手入れされ、整っているイメージがある。シンプルな緑色のペンケースも、その中に入っている細身のシャープペンシルも、何の変哲もないただの文房具だと思うのだけれど、とても格好良く見える。
椅子を正面にしたままで、座板を跨ぎ白柳の机に頬杖を突く。一定のリズムでキーが沈む。心地が良くて、眠気を誘われた僕は欠伸をした。手で覆ういとまもなく、大口を開けてしまう。くす、と友人が笑った。見れば、顔を上げた彼の眼鏡のレンズに、間抜け面をした自分が映っていた。

「眠い?」
「…そういう、わけじゃ…」
「寝たら?先生まだ来なさそうだし」

彼は、言いながら、展開されていた筆記具を僕から右側に移し出した。欠伸に誘発された涙を擦りつつ不思議に思う。終わった感じじゃなさそうなのに。

「片付けるのか?」
「違くて。ここで転がったらいいじゃん」
「いや、でも、僕、席に」
「そこの席の奴、時間ギリにならないと来ないから。気にしない気にしない」
「いやー、俺は気にするんだけどなあ?!」
「あぁ、十和田。居たの」
「居ましたよ。つうか来ましたよ。今な」
「お、おは、よう…」
「おー」

僕の腰掛けていた席の主――十和田が、軽く手を挙げた。鞄から教科書類を取り出し、机の上へどさり、と置く。その動きに「早くどけ」と急き立てられている気がして、立ち上がりかけた、が、支えに突っ張った腕が引かれた。白柳が見上げていた。

「平気平気」

鞄を机横のフックに引っかけると、長身は教室後ろのロッカーへ向かったようだった。電子錠を解除する音がする。そうして戻ってきた十和田は白柳の隣の席に腰を下ろした。友人はばちん、とウィンクをして笑う。

「ね」
「……」

女子に受けそうな、甘いマスクをそっと窺った。僕を気にする風もなく、彼は携帯電話を取りだして操作している。やや浅黒く、派手な顔立ちは久馬の周囲にいる連中と居る時、明るく賑やかしく表情を変える。白柳とは中学のときからの付き合いらしく、また、学外でもよく遊んでいるそうで、始終お喋りをするわけでもないのに、特有の慣れた雰囲気になる。僕にはそういう友人は居ない――いや、意図的に失くした。強いて言えば新蒔だけど、彼は後輩だし、学科も違う。だから、この距離感に勝手な憧れを抱いてしまう。

「ほら、ぼーっとしてないで。俺のマフラー、枕にする?」
「えっ、あ、いや…」

鞄から取り出した、如何にも温かそうなマフラーが目の前に現れた。彼は、それをたたみ直して、先ほど出来た空間に置き、まるで子どもを導くように軽く叩く。戸惑いながら白柳を見つめると、切れ長の双眸をさらに細め、微笑んでいる彼に出遭った。もしかしなくても、これは促されている。どうしよう。どうすれば。

「遠慮しないで、さあ」
「困ってるなら放っておけば」
「…っ、…」

スポーツカーのエンブレムをつけた携帯電話から、意志の強そうなひとみが覗いた。十和田の口調には何の感情も含まれていない。それでも、非難の色を感じ取って、僕は両肩を寄せ、身を縮こまらせた。…きっとうざいとか、思われているんだ。

「うざいよ―――、白柳」
「うっさいなあ。放っておけよ」

想像通りの台詞に身体は勿論、心までが凍り付きそうになる。
続けて呼ばれた名前が自分のものじゃなく、彼の名前であったので、驚いて顔を跳ね上げた。背もたれいっぱいに身体を預けた十和田が、顰蹙顔で白柳を詰っていた。

「ベタベタニヤニヤ、見せつけてんのかよ!キモイ!」
「ありがと」
「褒めてねえ!!」



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