(2)



楽しくない、楽しくないぞ、と思っている間に腰に食い込む指の力が半端無く強くなった。昨夜、ぶっかけられた精液のぬめりをかりて、おれの背骨の、もっと下からぬく、ぬく、と耳を塞ぎたくなるような音がする。店で売られているししゃもみたいな体勢で、律動が始まっている。おれにはロマンなんてないから、あくまで写実的な表現でいくぞ。ああ、でも、しばらくししゃもが食べられなくなるかも。見る度にきっと思い出してしまう。魚を見ながら、慶にどんな風に犯されたのか思い出すなんてシュール過ぎて厭だ。

「…ししゃも、とか、…お前は、もう…」

苦笑いの混ざった慶の声は、段々と熱っぽくなりはじめていた。張った腰とか、湿った陰毛が尻に擦れる。繋がっている、と思う。繋がっている。おれと慶が。

「ん、あっ、はあっ、けい、」
「ししゃもじゃなくしてやるよ」

荒々しく腕を引かれ、のけぞったところに彼の全体重が掛かってきた。たまらずうつぶせになると、腰の両脇に熱い掌がぴたりと当てられた。肩胛骨が乱暴に押される。慶の、おれに対する扱いは極端だった。甘いときはひたすらに甘い。けれど、手酷く扱うときはもう、男だから壊れないだろう、というくらいに乱暴にする。実際そうと言われたことだって、あった。
尻がすうすうする。あまりにも長い間、そんなところに異物を入れられていたら締まりだって悪くなるわ。

「大丈夫、しきはまだ若いから、充分締まるって。でも、俺のこれはいつでも入れるようにしといてね」
「ぜ、ったいに、や、―――ッ?!」

半勃ちだったちんこが唐突に握られた。慶の身体がさらにのし掛かってくる。下半身を突き上げた格好で頽れると、下でわだかまっていた布団に先っぽを押し付けられた。途端、快感がわっと全身へ広がる。

「ふあっ、あ、ひゃだ、いやだあっ」

ぐちゅぐちゅ扱かれて、後ろも、ぱん、ぱん、と規則正しく穿たれて。次第に腰が振れ、脚が開く。慶の動きに添うように、おれもいやらしく身体を揺らす。それを嘲笑うように、首筋に痛みが奔った。猫はセックスするとき、ここらへんを噛むらしいぜ、と余計な知識を披露される。知らねえよそんなん。おれもお前も猫じゃない。

「あー。気持ちいい。やっぱ、しきのからだはいいね。えろいし。付き合いいいし、丈夫だし」
「あっ、あっ、」

細かく出し入れをされるとリズムに併せて声が出た。これが一番厭だ。全部がこいつに支配されているみたいで。おれのかたちが熔けていく。どんどん、なくなっていってしまう。

「いいよ、なくなっちゃえ」
「けい、もっと、前、まえ、擦って」
「はいはい」

先走りで滑っていたちんこは、慶の手の中でどんなに弄くられても、固く張り詰めていた。掌がしゅ、しゅ、と動く度に先走りは濃さと色を変わっていって、おれの欲望が零れていく。瞑っている筈の目が、白くひかる火花を映す。前が気持ちよくなるとあれが一気にはじけ飛ぶ。早くその瞬間を味わいたくて、身体を支えていた手を腹の下へ持っていこうとした。

「駄目、だよ。しき。しきは俺の女なんだから、後ろでいかないと」
「はッ、あぁ?!なに、あっ、や、…っぐ、」

なんだっけ。手押し車?よくわかんねえけど、両腕を一纏めに引かれた。それでもって、慶の太い怒張が、腸液とか精液とかでぬかるんだおれの後ろに、これ以上ない、ってくらいに突き刺さった。

「ひぐ、」

息が詰まる。苦しい。でも、中が擦れて気持ちが良い。何よりも、慶が良さそうに肩口に額を押し付けているのがいい。ざまあみやがれ、と思った途端に、身体ごと抱きしめられた。おれは背後に回った慶にもたれ掛かるような格好で身を起こしかけていたので、自重で、完全に串刺しになった。腹が焼かれる感触がする。ぐしゅ、という音がしたのは、幻聴だと思いたい。

「―――あ、…あ、ああ、」
「やべえ、いっちゃった」と、低くて色っぽくて、――くらい声が呟く。「…ごめんね。後でいかせてやるから、…もう少し付き合え」


―――あとはもう、形も残さずにばりばりと食べられるだけ。




「朝飯、どうしよっか」
「…食欲ない」
「でも、俺腹減ったなあ」
「自分で作れ」

流石に出てった慶は、それでも相変わらず、おれを背中から抱きしめながら馬鹿を言っていた。これで飯作れとか意味わからん。もう腰は重いわ、尻は痛いわ、あそこだって、シーツに押し付けられた所為で痺れたみたいにひりひりする。肩越しに振り返ると、悪戯っぽくこちらを見る黒い双眸に出遭った。乱れた同じ色の髪に、ふいに触りたくなって身体を捩る。慶はちょっと笑って好きにさせてくれた。汗ばんでいる頭の皮から、真っ直ぐな短い髪の先まで気が済むまで撫で、指で擦った。

「子規はほんとうに、家事が駄目だなあ。特にメシと洗濯。目も当てらんない」
「倫理観が崩壊してるよかマシだ」

意趣返しのつもりで言うと、目のすぐ上にある喉仏がくくく、と鳴った。

「じゃあ、一緒に住んだら俺が作ってやるしかないな」
「……、……は?」
「そのリンリカンとやらは、子規の仕事にしといてやるよ」
「……」

おれはいつだって抵抗する。厭だと拒む。それは、いつか来る、終わりのときの為だ。そうしておけば傷付かないで済むし、過ぎる期待はきっと、楽しかったときの記憶すら駄目にしてしまう。慶を憎むなんてことだけは絶対にしない。あいつは、最低の大人で、エロくて、強姦魔で、顔と身体だけ星人だったけど、



それでもおれはすきだったんだ。



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