悪趣味なしりとり




「お前、本当家事駄目だよなあ」

弄うように言われて、おれは、慶の太股を思うさま打った。平手はぴしゃりといい音を立て、彼は「痛って」と悲鳴をあげる。

「どうせ駄目だよ。悪かったな」

努力はした。ああ、おれは頑張った。でも世の中どうにもならないことはある。それがたまたま家事だっただけの話。他は万事器用にこなせるか、と問われたら完全黙秘を貫かせて貰う。
出来なければ頭を使えばいいだけだ。幸い、食事にはそこまでの執着はないし、服だってあれこれ買おうとは思わない。つうか金ねえし。掃除、は、物が無ければ掃除機掛けるだけで終わりになる。後はコンビニか、遅くまでやってるスーパーがあれば何とかなる。
自慢げに言い返すと、男っぽいが、何処か昏い印象のある顔が呆れたように顰められた。そんな表情の変化すらセクシーだと思う。ぼんやりと見惚れていたら、背後から回されていた手がするりと腹を撫でた。

「…う、」

歯を食いしばって、声が漏れるのを堪える。ここは狭くて、ぼろくて、小汚い、三拍子揃ったアパートだ。慶の部屋。連れ込まれたのは何回目だろう。
初めは騙された。ヘンゼルとグレーテルよろしく、菓子につられるように甘い言葉に騙されたのだ。だって、こいつ顔がすっごい良かったし。声も妙に耳にざらざら残って、それで、「暇なら遊びに来ない?」なんて誘われたら大抵の子どもはついていくと思うんだよ。妹しかいないから、兄貴みたいな存在には憧れてたのもある。
大体さ、おれ、男だし。まさか、同じ男にヤられるなんて思いもしなかった。だから二回目は殴った。殴りかかった手首を掴み取られて、俵みたいに運ばれて結局、また突っ込まれた。「おれ、男なんだけど」と言ったら、「知ってる」と慶は言った。彼がよく浮かべる、理想的な微笑み方で。その鉄壁のツラの皮に向かって、死んじまえばか、と吠えたのは、…いつだ?

結局はなし崩しにされている。大人はずるいんだよ、とはこいつの口癖だ。違うな。ずるいのは大人じゃない。慶がずるいんだ。

慶の抱き方は総じて趣味が悪い。何が一番厭かって、終わっても抜いてくれない。萎えたふにゃふにゃのそれを、おれの尻の中に入れたままにする。後始末も何それ美味しいの、の世界である。よって、尻はぐちゃぐちゃ、腹はべとべと、シーツは汗まみれで、どこか饐えた匂いがする。なんで毎回、こんな修羅場みたいなことになるんだ。一期一会とか、そんな言葉、使っていい場面なのかよ。

「だって、しきの中、あったかくてすっげえ気持ちいいからさぁ」

俺冷え性だから助かっちゃう、と耳朶を声が掠めていく。それだけでぞわり、と鳥肌が起った。体温だって上がった。

「…冷え性とか関係ねーだろ。あったかいなんて、そこ内臓」
「うっわ、なにその発言。お前、ロマンとかないの?」

ロマンが聞いて呆れるわ。そういうのは蹂躙する側の妄想でしかないんだよ、この強姦野郎。犯罪者。貴様のナニなぞ腐ってどうにかなってしまえばいい。

「――っは、ぅあ」
「…そ、んなことなったら、…はは、困るのは、しきなのにさ」

尻の穴につっこまれたままだった、慶のちんこがいつの間にやら――、違う、これは自己欺瞞だ。先ほどの会話のうちから、ずんずんと育っていたのは気付いていた。おれは何とか抜こうと、横たわった身体を前へずらそうとしていたし、慶はそうはさせまいと薄い腹の前で組んだ手に力を籠めたのだ。

「けい、いやだ、」
「しきのイヤ、はして、だよね」
「勝手に解釈す、ん…あ、あ、あっ」

発言が親父臭くて最悪だ。時代劇とかロマンポルノの見過ぎなんじゃねえかと言ってやりたいところだが、この男の稼業のひとつにカストリ雑誌かくやのエログロ三文小説家、なんてもんがあるので、おそらくはそこらの語彙に頭がやられているのだと思う。残念な美形である。でも慶は、まだいい。
可哀想なのはおれだ。こいつは嗜虐心が充たされて最高かもしれないけれど、おれはちっとも楽しくない。



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