(7)



ゲームが始まって少しすると、ぎくしゃくしていた雰囲気は随分とこなれた。いつまでも面倒臭く考えるような連中じゃないのだ、元々。

「ほい、ドロフォー」
「テッメ、橿原…」

歯を噛み鳴らしてカードを四枚取り、月下の手の中に突っ込む。友人は鼻で嗤ってみせた。

「今に見てろよ」
「お前らんとこからじゃ俺をどうこうすんのは無理だろ。諦めな」
「おし十和田。いけ。玉砕してこい」
「ちょ、無理言うなっつの!」
「じゃあ俺から協力するねー。はーい、ドロツーですよ−」
「じゃあ俺もドロツー」

糸居、城崎がさも当然、という風に札を置き、今度は十和田がぶちぶち言いながら四枚増やす。電光石火の展開に、彼は慌てながらも橿原の手を待っているようだ。その耳に顔を近づけ、耳打ちをした。

「サカシタ」
「…っ」

だから、どうしてそこで涙目で耳を抑えるんだよ、お前はよ!少しは耐性つけろ!その為には幾度だって同じことをするからな、と心に固く決める。

「青が出たら、そのリバース使え。どっかでうまく色が変わったら、スキップかドロツー、どっちか喰らわせてやれ。いいな。…オレの言ってること、分かるか?」
「ああ…」
「分かってねえのに返事してたらキレっかんな」
「わっ、分かった」
「他、何か分からねえとこあっか」
「そこ、作戦タイムうるせえよ」とキノがぼやく。根に持ってやがるな。
「うっせえ。おい糸居。そいつちょっと黙らせといて」
「え、リアル?ウノで?」と空恐ろしいことを糸居が言うので、(リアルって何だ。つか「そうだ」と言ったら何をするつもりなんだ)「ウノだウノ、」と返すと、スキップを出してくれた。イイ奴だ。

城崎が呻き声を上げた。

ルールが分からない、と言ってはいたが、聞き出してみたら記憶が怪しいだけじゃねえの。同数字複数捨てとか、英語上がりは駄目だとか、ルールを教えていたら、頷く首の動きがしっかりしたものに変わっていった。オレは椅子から机に腰を掛ける場所を変え、高い位置から彼を見下ろした。うん、少し離れちまうけれどこれぐらいの方が見やすいな。月下も、ほっとしたように肩から力を抜いている。…オレだって、そこまで怯えさせるのは本意じゃねえんだ。

「…久馬…」
「大丈夫だって。とりあえずは適当にやってみ」

不安げに見上げてくる視線が面映ゆい。見捨てたわけじゃないんだから心配すんなって。

「キューマ、こっち見んなよ!」と十和田が身体をくねらせる。

あー、高さがあるから他の奴の手札まで見えるんじゃねえかってことね。するかそんな真似。

「バッカ、見るかよ変態」
「な!」

変態は白柳の枕詞であって、断じて自分のではない、だと?うるせえ、同じ穴の狢が。

「刑法第38条…」
「てめ、いきなり意味不明なこと呟くんじゃねえよ怖ええよ!イトイ!」
「お前は煩い…」

沈痛な面持ちになってしまった、橿原の胃に穴が開かないことを祈りたい。こいつは見目ほどには図太くないからなあ。さっきのフォローのこともあるし、勝敗に関わらず後でコーヒー牛乳でも奢ってやるか。そういえば、沈黙しきっている月下はどうしたんだ。

「……」
「…おい、月下よ」
「えっ、へえっ?!」

間抜けた声を挙げて、彼がオレを再び見上げた。瞳に残るキラキラの残滓を、見逃す筈はない。今の遣り取りの何処に、そんな羨望要素があった?下半身と電波内蔵の天才が意思疎通に失敗しただけだぜ?月下の幸せハードルの低さに、ほっこりしつつも残念に感じた瞬間だった。




※糸居が「刑法第38条」と言っているのは、「たぬき・むじな事件」という同法律に関係する刑事事件のことを思い出した為です。蛇足。



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