(6)



城崎は橿原がうまくいなしてくれるし、十和田が阿呆な発言をする度に、糸居が宇宙からの託宣を告げてくれるので暴走は止まる。流石オレ。ナイスな采配だぜ。
見ようによっては据わった目の、学年首席の様子を伺いながら十和田がカードを切る。手先が器用なのか、遊び慣れているのか、カード捌きはなかなかのものだった。七枚の手札が手元に届けられ、オレはそれを彼に取らせた。

「カードの種類は分かるか?」
「う、す、少しなら…」
「キノ、取説か何かあったっけ」
「…・・知らない」
「あん?」
「うっ…」
「箱の中に、確かカードになって入ってなかったっけか」

言いながら、橿原が箱へと手を伸ばした。空箱を振るとそれらしいカードがひらりと落ちてくる。

「あー英語で書いてあるな、これ」
「貸せ」

受け取ったそれを月下の手札に差し込むと、彼はしげしげと内容を見遣った。逃げ口上じゃなく、本当に知らなかったのだろうか。

「忘れ、てて、…その、さ、最近やってなかったから…」
「そっか」

彼の言う「最近」は、きっと高校入学後を指しているのだと思う。
ハコや、エスカレータ組にそれとなく聞いた月下の噂。中等部を修業してから、突然、人付き合いが悪くなったこと。決して苛められていたわけじゃなく、不思議な仇名すらもって、それなりに友人もいたこと。
ある日を境に、月下は自分の周囲に壁を巡らせてすべての干渉をはねつけるようになった。何故かは誰も知らなかった。…多分、本人だけの秘密だ。


こちらへ寄り添うなんてこと月下からしてくる筈もなく、しかし手札が読めないのは困る。椅子をがたがたと鳴らしながらより近付く。それこそ、椅子の座板がくっつくくらいに。

「ひっ、」
「……オイ」
「な、っでもない!ごめんなさい!」

ひっ、って何だよひって。…いや、いちいち突っかかるのはよそう。最近どうにも、怒りで目的を手段ごとぶっ潰す、という展開が多いからな。
確認したところ、可もなく不可もなく、という内容だった。数字の札3枚と、色替えが1枚、スキップが1、リバースが1、ドロツー1。
これは札の引きと座席の順に掛かっている。幸いにも月下の前は橿原で、後はオレを挟んで糸居だ。キノが月下のすぐ隣に来る筈はないが、万が一彼の前だったら手札の攻撃カード使い果たす勢いで襲いに来かねやしない。
ジャンケンの結果、ディーラーになった十和田が山札を返した。キノを挟んでいるにも関わらず、酷く居心地が悪そうにしている。若干可哀想な気も――――、あんまりしねえな。どんぐり目が挙動不審にきょろきょろしている。糸居だっていきなり噛みついたりしないと思うぜ。お前はまずそうだしな。

「十和田さー」
「な、なんだよ!!」
「動体視力のテストしてんの?俺揺れたりした方がいい?ランドルト環書いてあげよっか」
「いーや、いい!つかゼッタイ動くな、死んでも動くな!」
「死んだら動けないに決まってるじゃん。バカだなあ十和田は」
「―――!!」

あはははは、と朗らかな笑い声付き。でも糸居の笑い方って心底楽しいって感じじゃねえんだよ、何故か。本人は心外みたいだけど。「は」の大きさとか太さが、一個一個同じなんだよな。十和田はそれすら怖いらしい。きっとあいつだけに副音声で「自分で試してみる?」とか聞こえるに違いない。トラウマ一歩手前の苦手意識だ。

「…糸居、その辺にしといてやんなよ…」

キノにフォローされるって、どんだけ。そして糸居、これが素ってどんだけ。オレは溜息を零しながら、指先で月下の札を捌いた。

「なあ」

視線が頬あたりにひた、と当たったのが分かる。

「やったことあるなら、遊んでいる内に思い出すんじゃねえの?英語の札の意味、分かるか?」
「…な…ん、となく…」

一挙手一投足に彼が息を詰め、反応する。十和田の野郎とは別の意味で心臓が痛んだ。
なんだかなあ。こんだけ嫌われるって、オレ何かしたっけか。いや、いいんだけど。世の中全員に好かれたいなんて愉快なこと、思っちゃねえし。

「とりあえず無難に揃ってるから、記憶の通りに札出せよ。変なの選んだら、言うから」
「え、あ、…ああ…」

腕を組んでふんぞり返って月下の動きを見守り始めたら、橿原が苦笑していた。お前んとこの監督に似てるだと?グラサンパンチの五十代と一緒にすんな。



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