(4)



「おい、お前もこっち来い」
「え、あっ、ぼ、僕っ?!」
「そうだよお前だよ月下」
「キューマ、」

さっきとは打って変わって、キノの声が鋭さを帯びた。オレは気付かぬふりで腕を伸ばすと、月下の肩をがっしと押さえた。同じ男か、と思うくらいに華奢な身体だ。ふる、と怯えたように震えたのにも、知らぬふりをした。
やって来た橿原と十和田が、前の机を反転させる。オレも机を押してくっつけ、月下にも同じようにさせた。紅潮しているキノの顔が視界の端に映ったが、構やしない。

「ぼ、僕、その、ルールを、…知らないんだ…」
「じゃあオレとペアで」

この期に及んで抵抗を続ける彼にぴしゃりと言い放つ。まさか、と、慄然としている様を半ば申し訳なく思いつつも、半分以上はしてやったり感が強い。

そう、そのまさかだよ。忌避している相手に「一緒に組もう」だなんて言われるとは思わなかったろう。でも、オレは見逃さなかったからな。キノとじゃれている間、背中にひしひしと感じたのは羨望の眼差しだ。

月下が身を置いている孤独は、自らそうと仕向けているにも関わらず、彼が心底望んでいるものじゃない、という奇妙なものだ。どうしてか、分かる。分かってしまった。
真に独りを好む奴は、決してひとを羨んだりはしない。眩しく、手の届かないものを眺めるように、オレを見たりはしない筈だ。違うか?月下。

絶句し続ける彼は、促されるままによろよろと腰を下ろした。そして、立ち尽くす城崎の、嫌悪感まるだしの視線をもろに浴び、膝頭に爪を立てていた。

「よし、買ったやつはブリック奢りな」

高校生にしておくには勿体無い、色気のあるテノールが耳朶を打つ。発言はまんま男子高校生だけど。
剣道部の旧双璧――今一人は退部しちまったから、今やピン芸人の橿原が良いタイミングで割って入ってくれた。オレの顔を見、そうと分からぬ程度に肩を竦めて見せた。貸し、というよりかは、いらぬ諍いを回避したのだろう。流石、うちの面子の数少ない良識派。恩に着るぜ。

「ブリックじゃなくてよお、王様ルールにしようぜ?な?」

橿原と大した体格差もない、顔の作りはむしろこちらが整っているというのに、軽佻浮薄の四文字がこれほど相応しい男も居ないだろう。
十和田 丈。オレよりも明るい色に染めた癖毛、南方系の甘いマスク、長い手足でもって、見た目の通りよくモテる。そしてとにかく軽い。ヘリウムガスの詰まった風船もびっくりだ。

「王様ルール…って、このメンバーで何するんだよ…」

至極尤もな返しをする橿原と並ぶとまさに醤油とソース。水と油だ。
橿原が大人なので、特に問題もなく終わっているけれど、オレやキノと同じ、陸上部の卯堂なんかはこいつのことを超ウザがっている。無理もねえ。

「え?ホラ、例えば久馬を一発殴らせて貰うとか…」
「その後死にたいなら好きにすればいいんじゃないか」と橿原。代弁ありがとうよ。
「後はなんだ…あ、皮が剥けたか剥けてないかを大開陳するとか!」
「やりたきゃ公道で一人でやってろ。もれなく警察さんが回収に来てくれるぜ」とオレ。
「どこの皮だよ?」とキノが余計なことを言う。ガソリン缶をぶちまけるようなことすんじゃねえ!この推定童貞!

十和田が具体的な部位を嬉々として説明をする前に、こいつを黙らせなきゃいかん。さもないと、どうやらどこの話題をしているのか悟りつつある月下の精神が危うい。顔の上半分が青くて下半分が赤いなんつう、器用なことになっている。




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