(3)



「そ、れ、で?なーんの用かな、城崎くーん?」
「いッ、うッ、痛ぇよ、キューマ…」

こめかみを拳でぐりぐりと抉ってやると、城崎――タイミング悪くオレを呼ばわった張本人だ――は、こいつまさか悦んでる?って感じの悲鳴をあげた。
オレとキノの身長差はそれなりにあるので、抱え込んで仕置きをするぐらい何てことはない。筋トレも走り込みも、同じ部活、同じ種目なだけに運動量はほとんど変わらない。瞬発力はもしかしたら彼がまさるかもしれないが、馬力はオレのが圧倒的に上だ。取っ組み合いをしたら、論ぜずとも結果は出ている。

「オレ様の邪魔をしたんだからな、速やかに用件を言い給えよ。あァ?」

あまり剣呑な調子でいたら、関係のない月下までもが怯えかねない。
仕方がないので努めて笑顔で訊ねたつもりが、剥き出しになった歯にヒィ、と友人の気管が鳴った。まったく大仰な奴め。念のため、と視線を横にずらすと、案の定月下が目玉を丸くしてこちらを見つめていた。つい、うっかり、失態にもほどがあるのだが、眼力を強くしてしまい、彼も城崎同様、小さな悲鳴をあげた。…しまった。後でどうにかしておこう。

「―――で?」
「う、うにょ…」
「ウニョ?」
「うにょ、そ、そのうにょを…」

新しいジブリアニメか何かか。あの崖の上のうんたらとかいう、さあ。オレ、日曜のまる子とサザエさんは苛々するから見ねえ性質なんだけど、知ってる?キノは壊れた扇風機のように首を横に振り、手にしていた小箱をオレに見せた。

「ウノ、しねえかなって…」
「…あー?」と、オレ。バリバリと頭を掻いた。「あー、ウノね。はいはい」

昼休みの暇つぶしとして、うちのクラスではトランプゲームの類が流行っている。
流石に来年、受験の年になれば沈静化すると思うけれど、春の進級当初から持ち込まれた遊びは、未だに廃れる様子を見せない。

一番人気はウノか、トランプの大貧民、と言ったところだ。時々51とかぶたのしっぽなんぞをやっている物好きも居る。スピードは輕子が、神経衰弱は覚醒した糸居がめっぽう強い。多分、勝てるやつはうちのクラスにはいない。糸居なんて、毎日衰弱通り越して冬眠しているような奴なのにな。あ、因みに覚醒とか言っても髪の毛が逆立ったり金髪になったりする訳じゃない、念のため。

「思わせぶりな態度しやがって、キモイだろうが」

はかない抵抗を続ける同級生に、とどめとばかりにごつん、と拳固を呉れてやる。キノは頭を擦りながら弁解を始めた。むくれた猿面は非常に餓鬼っぽい。これでオレよか年上(あくまで月単位だけど)なんだから、世の中分からんもんだ。

「だって、久馬寝てたしよお」
「そういう時はとにかく起こせ。怒るか遊ぶかはオレが決める」
「いやだから怒られたらアレだから俺も考えたんであって」
「あ?何か言ったか?」
「なんでもない!なんでもない!!」

取りあえず、と辺りを見回すと、オレたちの遣り取りを聞きつけたらしい橿原と十和田が近寄ってきた。ウノってあんまり人数多いと、勝負がすぐついちまって面白くねえんだよな。あと一人か二人で締めるか。そう考えていた矢先、シナプスがぱち、と閃いた――気がした。

キノを解放してやり、くるりと振り返る。こちらを注視していたらしい月下が椅子を鳴らして後退る。なんだ、俺は珍獣かよ。
息を吸って、吐いて。誘いの文句は簡潔であればあるほどいい。
今度こそ、邪魔が入る前、断りの文句を差し挟まれる前に。



- 4 -
[*前] | [次#]


[ 赤い糸top | main ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -