(14)



「いやあ、纏と会室から戻る途中でさあ、人の迷惑顧みないで突っ走ってる城崎に遭遇したわけ。で、こりゃあ世間様に申し訳が立たないかな、と思って捕獲したんだよな」

ケラケラと笑いながら、それでもハコは城崎を離そうとはしなかった。教室で謎の啖呵を切ったのが嘘みたいに、キノは消沈した様子でぶら下がっている。まあ、お前じゃなくても相当不本意だよな、今のこの状況は。

「…多分、頭が冷えてもキノのことだから戻りにくいと思うし。だったら俺たちで連れ帰ってやった方が、話早いと思って」

東洋美人の輕子が至って淡々と後を引き継いで説明してくれた。城崎が真剣に抵抗できない理由はむしろこっちにあるんだろう。ハコは晒し者にする気満々で引き摺ってきたに違いないが、輕子の方は城崎を思ってこそだ。不思議な取り合わせだが、こいつら本当に仲良いし。御陰様で探す手間が省けたというものだ。

「で、こんな往来で、キューマは何をしてたわけ?まさか、月下相手に痴話喧嘩なわけはないし、ねえ?」

きら、とレンズの奥を不気味に光らせながら、白柳が問うてくる。マジでこいつ、月下関係だと最近目つきが物騒だよな。一体どこにお前の琴線に触れるもんがあったってんだ。
まあ、この男の琴線とやらが常識から割とずれまくっているのは、オレもよく理解をしている点である。説明されたところで困る。

僅かに首を捻って確認すると、さっきの恐慌状態からは立ち直ったらしい月下が、萎れた花のように佇んでいた。城崎が見つかってほっとしたのか、白柳の顔を見て落ち着いたのか、―――出来れば後者じゃなきゃいいんだけど。

「キノを探しに来たんだよ。鉄砲玉みてえにいきなり飛び出していくからびびったじゃねえか」
「……」

おお、キノの目玉がまんまるだ。だよな。オレのキャラじゃねえよな?でも、「月下が探したいって言いました」と明かしたら、途端にこいつブイブイ文句垂れそうだし。

「へえ、珍しい」と薄ら笑いを浮かべて親友が言った。「らしくないじゃん、久馬」
「まあ、…月下も、心配してたみてえでついてきたし」
「別に、こいつに探して欲しくなんかねえよ」

城崎が想像通りの模範解答をかましてくれて、白柳の片眉がごく自然に吊り上がり、輕子が小さく嘆息した。勿論、後ろの月下が一段下に落ち込んだのなんてまる分かりだ。
これ以上のフォローはオレには無理。大体、キノとハコが同じ場所に居合わせている時点で、面倒臭いことが起きないわけがない。

「マジ、久馬甘過ぎだ。そいつにも…、白柳にも」

両腕を左右に引き取られた愉快な体勢のまま、けれど、口調だけは殺伐とキノが唸る。輕子の口が僅かに開き、何かを諦めたように、一文字に結ばれた。もう、取りあえず、こいつそのまま強制送還しようぜ。教室に戻ったらもっと厄介な奴がわさわさ居るから、なし崩しでどうにかなるだろう。毒を毒で制す?うん、そんな感じで。月下が落ち込みすぎて日本の裏側に行っちまう前に、善は急げだ。

回れ右をして、「行くぞ」と号令を掛けようとした。やや猫背気味の影とすれ違いさま、そのほっそりとしたシルエットが口をきいた。ごく小さな声なのに、それはオレの耳に確かに届いた。

「…僕もそう、思う」

「…は?」
「…久馬は、……やさしい」





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