(4)



彼のそれに混じって、鼻腔を刺したのは、酒と、紛う事なき化粧品の匂い、それから…女の匂い。不在の理由と照らし合わせれば、結論なんて考えなくてもすぐだ。

「時間が来たから、アイツと入れ替わって…それで、言って遣った。二度と、逢わないって」
「…ん、くっ、」
「ツイてたよ。ついでに、女の名前で番号入ってたとこ、片っ端から携帯に掛けて近寄るなって言っておいたから、しばらく煩いのも寄って来ないだろ」
「みは、観春に、ばれる…」

後孔が、侵入者に食いつく感触が、辛い。そんな場所をまさぐられるのは久しぶり過ぎて、本来とは外れた用途に身体が拒んでいるのだ。ただの一本だって、指が入るところなんかじゃない。
蠢いているのが恋人の指だという事実から意識を逸らしたくて、必死に力を抜こうとしているのにうまくいかない。まるで悦んでみたいだ。そう思いついて、さらに自分の首を絞めてしまう。
感触だけじゃない、脂のたてる、ぬちゃぬちゃとした音が、より一層俺を責め立てた。後ろの刺激に誘われるようにして、前も濡れていく。冬織は軽く腰を浮かせて、硬い腹でもって、俺の緊張を擦り上げた。

「っふ、」
「アイツの名前は、今は、無し」
「分かった、…分かった、から…」

やめてくれ、と絶え絶えに言うと、彼は蠱惑的に微笑んだ。その口脣がゆっくりと近付いて、俺を食う。輪郭をなぞって、口蓋に舌を這わせて。こんちくしょう、と思いながら、結局は自ら舌を絡めた。涎がだらだらと口のきわから垂れていく。ああ、やっぱり自分は犬なのかもしれない、と靄の掛かった頭で考える。

「はっ、」
「ふふ…青梧は、キスしてるとき、本当に気持ちが良さそうだ」
「うるっ、さい」
「名前、呼んでよ、…しょうご」
「冬織、…とお、冬織」
「好きだ、青梧。明日からは、ちゃんと居るから―――泣かないで」
「泣いてなんか、っ、ん、はあっ、」

ゴーストは、帰ってこなくちゃね。耳の皮のこりこりとしたところを噛みながら冬織は呟いた。筋力の限界を訴えて震え始めた腕に、恋人の長い腕が絡みつく。パイを縁に引っかけて、視界の端っこでゆっくり皿が降りていく。その間も、緩くなったズボンのから這入り込んだ手は悪戯を続けていた。窮屈な下穿きの中で、固く閉ざされた窄まりを弄り、尻の後ろから湿り気を帯びた袋をくちゅくちゅと揉む。濡れた音の正体なんて、考えたくもない。

「…っは、も、やめ、ろって」
「うん?」

頭が次第に重くなってきた。欲と理性がもつれ合って、加速度的に思考がマヒしていく。きっと思うさま、下を扱ければ気持ちがいいのだろうが、冬織の思惑にみすみす嵌ってどうする。それでも、水分を失った花のようにこうべが垂れていくのを止められない。
彼の首筋に倒れかかると、冬織は嬉しそうに頬を擦りつけてきた。所構わず噛みついてやりたい気分になる。

「時間っ、」
「ああ。…うん、…そうだな…」
「ふあっ?!」

潜り込んだ四指にぎゅ、と袋から根元を握られて、俺は悲鳴を挙げた。一瞬、脳裏が白んだ、が、すんでの所で堪えることに成功した。はりつめた先端が痛い。下着の生地に擦れてじんじんと痺れる。安堵の、奥の、さらに奥で残念がる自分がいるだなんて――、気の所為だ。



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