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「お前、南瓜苦手だったっけ」

あの彼は、観春が不得手のものを入れたりはしなさそうだ(第一、観春がそれを赦すとは思えない)、と訝しく問えば、不快感もあらわに柳眉が跳ね上がった。

「嫌いじゃねーよ」
「じゃあ何で食わねえんだよ。昼休みだって無限にあるわけじゃねえんだぜ。つか、おとり巻きはどうした。あの賑やかな女連中は」

そして、一つの案件を思い出す。
観春のファンの中で、ナンバー2だった、文学部英語科の女子。何週か前から観春の彼女に「昇格」したらしい、と聞いていたのだが、その姿もやはり、無い。あの噂話は本当だったようだ。

デートに行って、しっかり夜まで過ごした癖に、突然夜中に「二度と逢わない」と別れを切り出された。説明を求めても、泣いても、とりつく島無く置き去りにされた。
女はメディアの取材を受けたこともある、学部ミスコンの優勝者だ。そうじゃなくても酷い話だなあ、あんな美人勿体ない、と半信半疑で相槌を打っていたら、なんと相手は中村観春だと言う。仰天した。自分の幼馴染みではないか。

「あー、じゃ、あれだな、ミキちゃんと別れたから故のご機嫌斜めなんだな中村君は」
「違げえし。…あの女と別れたのは事実だけど」
「はあ」

二週間、いや、一週間か?相変わらずの薄利多売ぶりに感心の念すら覚える。

「大体端から付き合ってねえよ。付き合ってくれ、っていうから好きにすれば、って言っただけ。暇だったし」
「返事として、それはねえだろ…」

ひたすらに、呆れる。不誠実の一言で片付けるにはあまりある、この交友関係に拍車が掛かったのは、いつの頃からだったろうか?
高校生の時は今少しまともだった。家のこともあったし、外聞にだってそれなりに気を遣っていた筈だ。大学生になってから?例の高級マンションへ引っ越してからだったか?

「突然だったみたいじゃん。二度と顔出すな、とか言ったんだろ。女の子にさー、駄目だろー、んなこと言っちゃさあ」
「へえ、俺、そんな風に言ったんだ」
「え、ああ、らしいよ」

平坦な声に、すわ機嫌を損ねたか、と焦ったが、観春は観念したような仕草で、鈍重にウィンナーを摘み上げたところだった。表情は声音と同じく、人形のように無機質で、整っているだけの面相。

「ふうん。―――呑んでたから覚えてない」
「……呑んでたからっつうか、お前の場合はどうでもいいからだろ…」

責め立てる気概も失せた。第一、それは自分の仕事じゃあない。友人として、いつか、誰か、正面切って観春を叱責できるような人間が現れることを祈ろう。

気を取り直して目の前のカツ丼に取りかかることにした。細心の注意を払って三つ葉を取り除く。デザートの上のミントと言い、鰻に乗る山椒葉と言い、何故こんな腹にも溜まらないものを乗せるのだろう。理解に苦しむ。

「そっちの、何、お重?今日はあの彼、厭に張り切ったんだなあ」
「煩い」
「へーい…」

低く唸るように発された怒声に、ひゃっと首を竦める。どうにも、あの同居人氏についての話題は藪蛇らしい。怒ると分かっていて刺激するほど、好奇心も冒険心も強くはない。



秋声は知らなかった。
四角い箱の中身を。そして、それが既に空になっていることも。



>>>END
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