羅針(12)



例によって決着の付かない言い合いを新蒔とユキがしている内に(俺は終始まともなことを言っていた筈だ)、10分の休み時間はあっさりと終わり、話し込んでいた剣道部共々走って教室へと戻った。


さて6限目は数学だ。
急遽、介護休暇で休むことになった女の先生の代わりにここ2週間ほど教鞭を執っているのは、何を隠そう俺たちの担任であった。

中肉中背、深い蒸栗色のスラックスとシャツ。
ピンクとチョコレートカラーの細いストライプのタイをきっちり締めた男性教師は、いつも通り柔和な微笑みを湛えている。
基本的に優しいのだが、説教の時は真剣に怖い。
…体育着で授業を受けても怒らなくたって、遅刻したらそりゃあ怒るよな。

臨時の数学教師こと、似鳥草一大先生は、にこにこと笑ったまま、出席簿を平手に打ち付け、「弁明は大事」と言い訳タイムを与えてくださった。
まさか本当のことを言う訳にも行かず、口ごもっていたら「腹が下りました」と馬鹿新蒔が言った。悪くはないが、後にする展開で真偽がはっきりする手を使いやがる。乗り切れんのか?

「5人全員?」
「ハイ、全員であります、センセー!」

――――そりゃどこからどう聞いても嘘だろ。似鳥先生がすっげえいい笑顔になりましたよ…?

その後、組体操よろしく5人扇を作らされて、「これが180度です。憶えてる?」とか何とか、三角比の生きる教材にさせられた。生き恥だ。
背が一番低いからという理由で俺が真ん中の芯にされ、でかいユキは端で床に手を突いていた。「折角やるなら斗与の隣が良かった」と嘆く阿呆にまたしても溜息。落ち込むところが違う。

寝る度に叩き起こされる斜め前の新蒔に溜飲を下げつつ、昨日に比べればまだ平和な日の終わりを、俺は迎えようとしていた。



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