羅針(11)



担任のナイスな計画に寄れば、この後進級する度、お前はあのボロボロの机を持って移動することになっているのだが、今からそんなこと言っていて良いのかよ。
あまりの言い様に脱力する俺を、ユキは不思議そうに見下ろしている。

「なに?シャケも見目先輩に用事?」
「あー、こいつ見目先輩、見たいんだと」
「見れるよ、立候補演説の時」とユキ。「さっき領戒から聞いたもの。出るんでしょ、見目先輩、生徒会選挙」

事も無げに言い放った彼へ、今度こそ手放しで拍手喝采をした。新蒔のずぼらさに拍車を掛けてしまいそうだが、近々やるらしい生徒総会で、お立ち台に立つ見目先輩と、放っておいてもご対面、となる筈だ。人垣の向こうからパンダを見るのに近いものがあるけれど。折角のユキの指摘にも、新蒔はあまり心を動かされた風がない。
本当に先輩に逢いたいんだろうな、と訝しくなるほどだ。

「…オレ、イベントあっても寝るしぃ」

ああ、そういえばそんなこともほざいでいたな、お前は。
遂に欠伸までし始めた新蒔は、何かを思いついたように手をぱしん、と打ち合わせた。オレ超頭イイー、とか言いながら奴の放った台詞はこうだ。

「大江んちに行けばいいんだ」
「却下」
「その提案は受理できません!」

ユキと俺は即座に新蒔新案を蹴った。新蒔の登場によって引き起こされる惨事が目に浮かぶようだ。こいつの外見だけで確実にばあちゃんはキレる。それに林ツインズと出遭ってでも見ろ、どんな化学反応が発生するかわからんじゃないか。俺の住むところを無くさないでください、お願いします。

新蒔は不服そうに唇を尖らせながら文句を言う。

「だって演説とかって何か偉そうなこと、ネコ被ってダラダラ話すだけだろー。ってか、生徒会とか言って、マジテンプレ。ヨシはほんと毎回形から入るよなあ…変わんねえって言うかなんつうか」

その匂坂の最大にして最凶の選択失敗が新蒔だったことは、考えるべくもない。
王子様嗜好とやらが何を間違ってこいつを相手にするのかが理解できん。男同士以前の問題だ。

「あ、そだ。サイトー、見目先輩と写メ撮ってよ。そんでもってオレに送って」
「絶対断る」

ってか、断られるっつうの。

「お前どんだけ来たくないんだよ。たかだか1階降りる程度だろうが」
「だってオレシャイだからさあ。今もここに居るだけで恥ずかしくて、ほら、顔とか赤いっしょ」
「……、どのツラ提げて…!」

さっきまで一級上の先輩にタメ口きいてた男がよくもまあ!

「斗与」
「あ、なんだ、ユキ」
「来るのが面倒ならずっとここに居ればいいんだよね」

にこにこと相好を崩しながら宣うユキ。こいつ、こうやって笑ってると図体はさておき、結構可愛いんだが―――待て待て俺、流されてはいかん。言ってることがちっとも可愛くない。

「だからシャケはずっとここに居ればいいと思うよ」
「大江ぇえ、お前、オレのこと見捨てるのかよぉ」
「見捨てないよ、だって拾ってもないもん。ね、斗与」
「どうなんだよサイトー!オレのこと、拾ってくれたんじゃないかったのかよ、あらしのよるに!」
「意味がさっぱりわからない!」

嵐の夜って何だ。シェイクスピアか、それとも羊(…山羊だっけ?)と狼が出てくるあれか。まさかとは思うが、天から飛行石でふらふら落ちてきたなんてネタじゃないよな。
捨てたとか拾ったとか、そもそも気がついたらお前は斜め前に座っていたんだろうが。
三つ編みのシャケを想像したところで、胃にがつんと来た。後は若い二人に任せて、戦線離脱します。




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