羅針(9)



「先輩のポスターいつでんのかなあ」
「うちのクラス誰か出んの?居なそーだけど。ってか普通科で当選とかあんのかな」
「大江出たら?でかいし目立つんじゃね?」
「いやだよ。…斗与、さっきの怪我、大丈夫?」

ハメルンの笛吹きよろしく、ぞろぞろと歩く1年坊主の群れを先輩方が不思議そうに眺めておられる。穴があったら入りたい、と心の中で復唱しながら、ユキの問い掛けに生返事。黙ったままだと状況が悪化するのは目に見えている。
やたらに俺を気遣い続ける――いつも通りか――190センチの巨人・ユキと、校則無視の金髪ロン毛で、だらっとポケットに片手を突っ込んだまま、目があった女子生徒に手を振る阿呆、こと新蒔大輔は素晴らしいまでの悪目立ちぶり、当然群れで動いている残りの面子もびしびしと視線の一斉射撃を浴びている。ああ、空気になりたい。



体育が終わった後、6限の授業の教師は体育着で受けても注意をする人物じゃない、ならば着替えないで授業に出てもオッケー、という結論に達した。その分浮いた休み時間を、新蒔の提案に使うことにした。行き先は2年6組、見目先輩の教室だ。

流石のユキも先輩のクラスまでは知らず、俺は言わずもがなで、剣道部の連中に聞くことにした。そうしたら、「自分達も用があるのでついでに行く」などという展開になり、当たり前のようにやって来たユキを加え、賑やかに5人で移動する羽目になってしまった。
糞、俺はもっと隠密裏に行きたかったのに。
見目先輩の所に行く、の一言でユキは内容を察したらしい。途端、心配気な表情になったので居たたまれなくもあったが、他2名が増えたことによって面倒な話は回避できた。不幸中の幸いだ。

「見目先輩って、下宿じゃどんな感じ?」

何を期待しているのか、きらきらとした目を隠しもせずに問うてくる日置に、ユキは振り返って首を捻った。

「部活のときの見目先輩を知らないから、うーん…、普通なんじゃないの」
「下宿で人違うって、それどんな二重人格よ、ヒキ」

もう一人の剣道部、有難い突っ込み体質の領戒がすかさず割って入ってくれた。非常に有難い、ユキが馬鹿な発言をしたら併せて面倒を見てくれると嬉しい。

「やっぱ2年ともなると違うな――――発育およびスカートの丈が!」

俺は今のところ、この阿呆で手一杯だ。二人も面倒見切れんわ。



俺や剣道部二人組は間違いなく物慣れない、落ち着かない的1年オーラが出てるだろうし、ユキは解釈不明と思われるが、新蒔の堂々たる態度、即ち態度のでかさたるや、目を瞠るものがあった。正直2年か3年としか思えない。
普通、自分と違う学年の廊下に来れば、雰囲気の違いやジェネレーションギャップとまではいかないものの、圧迫感のようなものを感じると思うのだが、彼は悠々と人の間を縫って歩いて行く。自然、新蒔を先頭に、俺が続き、狭い廊下を塞ぐわけにもいかないので、ユキが後ろを、さらに後を日置と領戒が歩くことになった。余計に新蒔が年上っぽく見える。老けてるのとは違うのに、まさにシャケマジックだ。

「お前、生徒会とか立候補してみたら」

思いついたことを特に考えもせず口に出すと、後の方から絶叫が聞こえた。

「斎藤、気でも狂ったか!?」
「斗与、考えなおせ!シャケ菌か、シャケ菌に感染したのか!」
「…っ、保健室に行こう、斗与」

以上、領戒、日置、ユキの順での発言でした。新蒔はともかく俺までその扱いか。確かに問題発言だったけど、流してくれよ頼むから。言った端から後悔してるんだから。
病原菌呼ばわりされた当人は顎に指を添わせながら、振り向き様に「負ける勝負はしない主義なんだ」とかほざいている。何か格好いいこと言えてると思ってるんだろう、お前。なあ、そうなんだろう?!ウインク的な何かをしたつもりらしいが、目蓋両方閉じてるぞ!



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