star festival



7月拍手「七夕@大江家」の補遺のつもりが、何だかしっかり短編になりました。
ギャグとシリアス(!)ごった煮の、夏季下宿生オールメンバーです。で、やや東明×斎藤。しかし視点は大江…。
よろしければ、どうぞ!(これだけでも読めないことはないですが、事の起こりは拍手参照です)


(大江)

学校の隣に拡がる笹林は、祖母の知り合いのものだ。この辺り一帯の土地を管理している、古くからの地主さんのものである。
いつも七夕の時期になると笹の林から手ごろなやつを一本貰ってきて、正面玄関の脇にくくりつける。枝ひとつ、とかじゃなくて、丸々一本。結構本格的だ。
下宿生たちは垂れる緑に様々な願いを提げていく。物心ついた時からその風習は始まっていて、中学に上がってからというもの、運搬役は僕と、1階の貸し家に入っている店子――――大学院生の小津さんの仕事になっていた。

考古学を専攻している彼は研究にアルバイトに、と、何かと忙しい身らしく、大学生の時分から不在にしがちだったけれど、院に進学してからも大江の家にいないことが多かった。
制約のある大家付き貸し家から、もっと奇麗なマンションやアパートに出て行っても良さそうなものなのに、うちをとても気に入ってくれているらしく、目下最長在留期間を更新中である。


そんな彼が七月の頭、ふらっと家に帰ってきた。
骨っぽい長身、目が隠れそうな長さのパーマヘアと無精髭は相変わらずで、煙草の葉をとんとんと整える指までもが浅黒く、よく焼けていた。

皆の兄貴分ということもあり、ばあちゃんも下宿生も、小津さんの帰還を喜んだ。斗与なんて僕がちょっと妬けてしまうくらいに懐いているので、帰宅の日の夜は大騒ぎだった。林さんたちに至っては小津さんの部屋にまで上がり込んで、酒盛りをしていたみたいだ。緑陽館の先輩後輩だから、仕方ないと言えば仕方ないのかな。

それで、である。

七夕を前にした日曜日、期末考査を控え、だらだらと身の入らない勉強をしていた僕の部屋を小津さんが訪れた。

試験さえ乗り切れば高校生活初めての夏休みだ。
何をおいても、今年は斗与がいる。ずっと焦がれていたあのひとが、近くにいるのだ。
自然、目前の試験よりも後の長期休みに意識が飛びがちで、シャープペンシルの尻を顎に押し当てながら、海に行きたいな、サイクリングでもいいな、と余所事ばかりを考えていた。最近の僕は大概その調子だったので、呆れ返った幼馴染みが「図書館に勉強しに行く」と、一人出掛けてしまったのは痛恨の極みだ。

どかん、とノックなのか蹴りなのかは分からない音が扉を打ち、一瞬にして現実に引き戻されて出入り口を振り返った。

良く鍛えられた身体にTシャツと迷彩柄のハーフパンツというラフな恰好をした小津さんが立っている。にやにやと笑いながら肘をドア枠に凭せ掛け、ぽかんとする僕を見ていた。

「おーう、青少年。何してんだ?妄想か?オナってたのか?」
「…勉強です…」

素直に妄想です、とは言えなくて教科書を手で引き寄せつつボソボソと返事をした。流石に後者はない、色々溜まってはいるが、真っ昼間からこんな無防備な状態で盛ったりはしない。但し、後ろ暗いところが多々あるのも事実なので、僕の答えは歯切れが悪くなってしまった。

小津さんは差して気にした風もなく「へーえ」と呟くと、ポケットから毒々しいまでに水色の、ペパーミント・キャンディを取り出して舐め始めた。どうやら禁煙中らしい。もごもごと頬袋を動かす様を見物していたら、同じものがぽい、とこちらへ放られる。細長い形のそれを包み紙から取り出し、舌の上へ乗せた。…意外といける。

「結構うまいだろ」
「ふぁい」と僕。
「…由旗よ、今年、まだ横山さんとこ行ってねえよな?」
「えっ?あ、はい」

唐突に出てきた近所の人の名前に首を傾げ、じきに得心した。椅子から立ち上がった僕に年嵩の青年は満足そうな笑顔を見せた。

「…妄想してる時間があるってことはお前暇だな。暇だろ?…おら、行くぞ」
「……」

どうやらばれていたらしい。…恥ずかしい。




- 5 -


[*前] | [次#]

entrance



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -