(6)



「あ、はあ、や…っ、」
「…、…ぅ」
「はあ、ふ…ああん、っ、はあ、っ…、」
「…迦眩のナカ、…熱い…、俺のかたちに、なってる…っ」

ぎし、ぎし、と寝台が鳴っている。それに、ぐちゅ、ぬちゅり、と耳を塞ぎたくなるような粘着音もひっきりなしだ。
俺は四つん這いになり、腰を高く上げて下肢を燕寿に捧げていた。懐かしく眺めていた帯が、眩草の花の紋様が手首を戒めている。それをひたすらに見せつけられて、涙が止まらなかった。

燕寿のものが、俺の後孔をずっぽりと埋めている。挿入に強張った身体をいたわるように待ってくれたのはものの数十秒だった。無理だ、と熱っぽい囁きが聞こえ、すぐに奴は腰を振り出した。俺が悲鳴を挙げようが、痛みに脚をばたつかせようがおかまいなしだ。

一度中で達した後も、怒張は硬さを失わなかった。ひっくり返され、奴の精液を潤滑油代わりにぐちぐちと塗りつけられ、信じがたいことに、身体が快感を拾い始めた。
脚を開くと、孔も広がって燕寿の肉が奥まで侵入してくる。始めは痛みを逃すためにそうしたのに、まるでもっと奥まで欲しがっているみたいで、そのことに気付いてまた絶望した。
奴の方もそうと解釈したらしく、背中に舌を這わせながら、細身ながらもよく鍛えられた体躯を押し付けてくる。

「もっと、…気持ちよくしてやるよ」
「っあ、いや、っあ、はぁあ、やめ、あぁっ、あああっ!」

太い性器でもって蹂躙を続けながら、べたついた手が俺の陰茎を掴んだ。出し入れされながらそこを扱かれると、身体の震えが止まらなくなる。

「ぁああ、いいっ、いあっ、」
「ね、いい・・?気持ちイイ?迦眩…」
「いい…っ、ん、いく、あん、ああ…っ」
「可愛い…、ほら、俺の、もっとやるから。…っ、ちゃんと、からだで覚えておけよ…」
「んあっ、いい、も、っと、おく、…いれ、て…っ!」
「――っう」

引き抜かれると勝手に腸壁が収縮する。燕寿のものが出て行かないように、径を狭める。
そうすると奴は嬉しそうに俺の腰を抱き直し、打ち付けてくる。ぱん、ぱん、と燕寿の腰骨と俺の尻がぶつかる音がする。

駄目だ、…呑まれる。

「…迦眩!」
「…!!!」

意識が飛びかけたところで、一番聞きたくない声が聞こえてしまった。空戒。妹を送り届けて戻ってきたんだ。

何とか首を捻ると、開き掛けた扉が目に入った。
部屋の明かりが漏れて、近付いてくる人影が床に伸びている。頭から冷や水をぶっかけられたように、正気に返った。
後の結果がどうなるにしろ、こんな醜態、空戒にだけは見られたくない。

「迦眩、無事か!」
「…っぁあっ!」
「か、迦眩?!」

涙目で燕寿を睨み付けると、奴はうっすらと笑みを浮かべた。あまりにもうつくしすぎる顔立ちに浮かぶそれは、酷薄で、残忍だった。

親友の到来を知ってなお、奴は俺の中を抉った。この異常な状況をどう取ったのか、気持ちを裏切って身体は燕寿の性器をぎゅうぎゅうと貪ろうとする。俺は眉を寄せ、奴も熱い溜息を吐いた。

「…俺は、構わないぜ。迦眩が見せたいのなら、見せりゃいい…っ」

深く、深く息を吸う。つられて後孔に収めていたものをより深く呑みこんでしまったが、歯を食いしばって堪えた。ふいに鋭くなった俺の双眸を燕寿が注視していたことなんて、どうでも良かった。

「…捲け、炎よ!」

おそらくそれは、今までで一番まともに能力が使えた瞬間だったと思う。
半端に開いていた扉を封じるべく、炎が出現した。温度はあるが、何をも焼くことのない幻火の勢いで戸が押され、ばん、と音を立てて閉まる。空戒の慌てた声が辛かった。

「どうしたんだ、おい、入れねーぞ、これっ!」
「だいじょう、ぶ、だっ…くうかい…っ!」
「迦眩?!お前、くそ、何なんだ!何が起きてる!」
「頼む、帰ってくれ!今は、…っぁ、今、は、駄目なんだ…っ!」
「…奇麗だった、迦眩。俺の、つがい…」

頭がおかしいとしか思えない発言をした上、燕寿は陵辱の手を再開しやがった。
じゅ、と自分の陰茎がいやらしい音を立てるたび、奴のものが俺の後孔を女の膣みたいに犯すたび、それらが空戒に聞こえないことを心底願った。
火の輝きが増せばいい。その音に、すべてがかき消されればいい。

「かくら、かくら、…っ」
「…ぁ、っ、…うっ…ん、―――ぅんんっ!」

禁じられていたことも忘れて、布団に噛みつく。胎を焼き尽くすように他人の熱が拡がった。燕寿が中で出したのだ。
上半身を崩し、尻を高々と上げた俺はそれが全身に回っていくような錯覚を覚えていた。

―――空戒の声が、遠い。

早く帰ってくれ。言い訳をするのも考えるのも、すべて後回しだ。…機会が残っていればの話だが。




俺が正朱旗に嫁す馬鹿げた決定が降ったのは、実に翌日のことだった。


>>>END?


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