(5)
「ん…ん、くぅ…っ」
「声を、殺すな。…聞かせろ」
「…っ、あ…はぁ…っ!」
目に映るのは、鼻先を埋めた衣の赤い色だ。仰向けに寝転がり、着物をはだけられて俺は下肢を暴かれていた。手首は帯で縛られ、寝台の柱に結わえ付けられている。
剣鉈を傍らに置き、外套を床に投げ捨てた燕寿は、ぴったりとした皮の衣装を纏ったままだった。服を脱ぐのももどかしい、といった様子で、俺の膚を撫で回し、舐めて、事もあろうに下穿きから息子まで引っ張り出しやがった!
「これ、邪魔だな…」
首元までまくり上げられた薄絹を、長い指が引っ張る。俺は現実から目を背けたくて、シーツに広がる袖へと横顔を埋めていた。なので、耳のすぐ隣ですらり、と硬質な音が聞こえ、それが何かを察してぎょっとした。
果たして、燕寿は剣鉈を抜いていた。花護の証である刃を薄い下着に引っかけようとしているところだった。
「や、やめろ…」
「なんで?」と、心底不思議そうに聞いてくる。こいつ実は馬鹿なんじゃ。
「妹に、…やるんだ。だから、切らないでくれ」
「ああ、そう。…こんな安物。何枚だって買い直してやるのに」
「…お前…っ!」
「嘘だよ。じゃあ、ちゃんとこっち見ろ。それから目、閉じるな。あと黙ってるのも禁止。守らなかったら、上着から纏めてずたずたにするぞ」
「わか…っ、うっ・…あぁああっ!」
正面を向いた俺が首肯をするのを、実に満足そうに微笑みながら確かめた後で、奴の頭が下に沈んだ。え、と思った時にはもう遅い。手で扱かれて半ば硬くなっていた陰茎が、生温かいものに包まれている。
「…っ、ふう…っ、」
「あっ…、ひ…っ、んあっ、はっ、あっ、ああっ」
くちゅくちゅと、淫猥な水音が聴覚を犯していく。温かなそれの中で、分厚い肉が茎を辿り、浮き上がった筋を撫で、陰茎のえらの部分を掬い上げるようにして舐めている。わざわざ見なくても分かる、
口淫されている。
始めての経験に、びくびくと太股が痙攣する。燕寿は開いた俺の足の間に陣取って、這いつくばるように奉仕していた。黒髪が揺れるたび、俺のものが唾液を孕んだ内壁に擦られ、育っていく。思考を剥ぎ取られるような快感に腰が浮いた。奴の口に、自ら擦りつけると燕寿は嬉しそうに咥えこんだ。
あの、正朱旗の御曹司が。将来この国の執政になる筈の男が。
「…甘い…」
「…い・・っ、あ…ッ!」
小休止とでも言うように、根元を指で戒められて小さく悲鳴をあげてしまった。ぐっと力を込められて、全身が鞭打たれたみたいに戦慄く。もう少しでイケるところだったので、絶望感はいや増した。
奴はそんな俺を見て、口脣をてらてらと濡らしながら嗤う。
「花精のは甘いって聞いたけど、…あんな連中のなんて触る気にもならねーな」
「く…っ、やめ…っ」
「何?だしたいのか?じゃあ、ださせてください、とか言ってみる?」
少し力を掛けられただけで、直下の玉がふくれあがるみたいだ。射精出来ない苦しさに、俺はいやいやと首を振った。汗と唾液で顔がべたついている。服、多分、汚れてる。
「聞いてんのかよ、迦眩」
「…ひ…っう!痛…っ、痛い…!」
ぐちゅり、と厭な音がして、すぐに激痛が奔った。苦しさに圧迫感が加わる。俺は目玉を見開き、喉を精一杯開けた。
「痛い…、やめ、痛い、燕寿…!」
「かくら」
反射的に燕寿の名前を呼ぶと、蹂躙者はうっとりと目を細めた。後孔に、何かを――多分、指を埋めたままで。勃ち上がって涙を流している俺のものを変わらず絞め、ずりずりと身体を屈めていく。一拍おいた後、尻に突っ込まれていた指がゆっくり抜けていった。ほっとしたのもつかの間、今度はそちらに生温かい感触が。
「―――っ!!」
こいつ、正気か?
あまりの驚愕に俺は失態を犯した。見てしまったのだ、その、惨状を。目にした瞬間、羞恥でざっと頬が熱を持った。だけでは、ない。
言いしれない恐怖が、まるで墨壺を引っ繰り返したように、胸に広がった。
「やめ…やだ、やだっ!やめてくれっ!」
「…煩いな…」
「やめて…っ、あぁああっ!は…っ、あぁっ!」
燕寿は俺の内股に手を掛け、閉じるのを封じた状態で、菊座に舌を差し入れていた。やめろ、と騒ぐと、今度は陰茎を手で扱き始めた。脚をぱかりと開き、勃起したそれを晒して俺は女みたいに喘いだ。大きな掌が時折爪を立てながら、ぐしゅぐしゅと上下に動く。
恐ろしいことに、段々と尻の気持ち悪さが薄らいでいった。段々考えられなくなって、ただ射精したい一心で腰が揺れ始める。
「いやらしい…」
「はっ、ああっ、はっ、はっ、いく、いくっ…」
誰に何をされているかなんて、もうどうでも良かった。踵に力を入れ、燕寿の手に自分のものを押し付けるように尻を振る。俺があまりに動くので、彼は舌を入れるのを諦め、今度は孔全体に食いつくように口脣を当ててきた。
肛門の襞を囓られた瞬間、俺はイッた。
「…ぁああ!…ああ、あああっ…」
虚脱した、間抜けた音が喉から垂れ流される。同時に、びゅ、びゅ、と腹や胸に熱い粘液が飛んだ。搾り取るような動きで、燕寿が陰茎を握る。
顔に向けて扱くものだから、白濁の塊が鼻先目掛けて飛んできた。口の端あたりにどろり、とした感触が。避ける気力も体力もなく、それを受けた。
「…はは…。本当にいやらしい顔してんな、迦眩。想像以上だ」
お前は想像したことがあるのか、だったら相当残念な変態だな、と罵ってやりたい。射精の後の疲労感で口を開くのも億劫だったので、ひたすら浅い呼吸を繰り返して終わったけれども。
俺がはくはくと息を吸うのに必死になっていたら、顔を上げた燕寿はこちらを凝視しながら、ゆっくりと手を動かした。
「…ん…っ」
「ああ、随分緩んでる。やっぱ、一回出した方が良かったんだな」
後孔にまたしても指が入っていくのが分かる。しかも、さっきより多い気がする。
「―――っ、くる、し…」
「大丈夫、…大丈夫だから」
空いた方の手が、萎えた俺の性器を撫で、そして腹に散っていた精液を広げるように動いた。普通に気持ち悪い。ぞくぞくする。
「…っあ…」
「ほら、乳首だって勃ってる。気持ちいいんだろ、本当は」
知らない内にしこっていたそこは、燕寿の言うように芯を持っていた。奴は身を寄せると、立ち上がった乳首を摘み上げたり、押しつぶしたりし始めた。女じゃないんだし、気持ちよくなる筈もないのに、俺の神経はそちらに集中していく。
指の腹でぐりぐりと押されると、快感が奔る。背中が撓った。俺が反り返ったのとほぼ同時に、燕寿は下の蕾に入れていた指をぐい、と折り曲げた。
「…っあ?!」
「あ、ここか。…マジで人間と似たようなとこについてるんだな。あ、でも、迦眩は半分人間なんだから、有りっちゃ有りか」
反応を見定めたように、燕寿は再度中の指を蠢かせた。何かが摘まれ、潰されている感じがする。でも、よく分からない。何がどうなっているのかなんて、冷静に判断できない!
「あっ、ああっ、ふぁっ、あぁ、はぁん!」
ぶっ壊れた楽器みたいだ。奴が指を出し入れする度に俺は甲高く啼いた。口を締めようとしても無理だ。変だ。身体が自分の支配から完全に脱している。
怖くなって、開いていた足で燕寿の身体を挟んだ。奴はびくり、と大きく身震いすると、俺を見下ろしてきた。形にいい口脣が弧を描く。
…何をしでかされているかも忘れ、見惚れてしまいそうになる。
「え、えん、じゅ、…なに、なんか、変、だ」
「変なことなんて何もない」と、奴はばっさり言い捨てた。「迦眩が俺を受け入れるってだけの話だ」
「受け、入れる…」
「そう。…自分で、決めたんだろう?妹の為に何でもするって」
「……」
「手間が省けたよ。まさか、…本命が釣れてくれるとは思わなかった…」
指がゆるりと抜かれ、燕寿は両手を俺の内股に掛けた。またしても勃ち上がりはじめた陰茎と、濡れた菊座を露わにした余りの恰好に俺は情けなくも涙ぐんだ。
しかも中に異物を蓄えていた孔は、喪失感を訴えるようにぱくぱくと収縮している。羞恥と混乱と、絶望に浸されて俺は目を瞑った。
衣擦れの音がする。そして、目蓋が舐められた。
幾度も、早く開けと急かすように目眦を濡らされ、涙をすくい取られた俺が見たものは、無上の喜びに綻んだ燕寿の顔だった。
「俺のものだ、迦眩」
そうして、俺は貫かれた。
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