隣人は密かに(3)



黒澤より少し低い身長に、バネが良く利いてそうな体躯。猫っ毛の黒髪を無造作にスタイリングした、快活そうな――悪戯っぽい目つきの浅黒い青年。が、二人。
でかいスポーツバッグを左右の肩から掛け、暗緑色に茶のストライプが入ったスラックスの上へ、シャツをだらりと垂らして立っている。と、そのバッグをどさどさと畳の上へ落とすと、恐ろしい早さで此方へ寄ってきた。

「今日はとよとよちゃんはクロちゃんと飯ですか」
「サイボーグ・クロちゃんとですか」

出たよ、リンカンとリンシューの輪唱…。これどっちに返事したらいいのか迷うんだよ、勘弁してくれ。大体、似たようなこと繰り返してる、って分かってから何となく会話が成立するようになったけど。

断じて駄洒落じゃない。まじでリンシューだし、リンカンなのだ。
ええと、今は左が林周先輩、右は林環先輩。本当は『あまね』、と『たまき』、って言うらしいけど、名前で呼び合っているのはお互いぐらいのようだ。
彼らの名前は覚えた。だって何かと絡んでくるし、区別を付けないと目当ての方を呼べないし。林先輩、だと両方振り返ってしまう。不便利な先輩たちめ。

この人たちは相当騒がしい。もうあり得んくらいにうるさい。隣同士だからって壁を叩いて呼び合うわ、釣ってきた鮒は風呂に放流するわ、夜中に抜け出して外でバレーボールだのバドミントンだのをするので、名実共にばあちゃんの天敵だ。追い出さないのが不思議なくらい。

「サイボーグ・クロちゃんはとよとよが相手だと結構のんびり食ってんよな」
「クロちゃんととよとよはどんな話すんの」

見下ろした黒澤は双子に挨拶もせず、鮭の切り身を食べやすい大きさに切り分けて効率よく食べていた。そして質問なのか、からかいなのか、とにかく降ってきた言葉は完全に無視している。双子はけらけらと笑う。

「無視ですわ」
「無視ですな」

とよとよ、と――――呼んだのはリンカン先輩だ。

「俺らクロちゃんに口聞いてもらえないんだよ、可哀想くねえ?」
「はあ…」

それは黒澤が返事をする気がないことばかり聞くからじゃないのか…?俺と黒澤がする話なんて、わざわざああだ、こうだと具体化出来るようなもんじゃない。だって特に考えもなくだべっているだけだから。

「だからさあ、とよとよが構ってつかあさいよ」
「受け止めてその愛で、…ほれ」

リンシュー先輩がリンカン先輩の背中をばん、と押したものだから、彼の身体が思いっきり俺に被さってきた。避けようとして、絡まっていた椅子と足がそのままになっていたことに気付く。遅いっての、俺。今日は厄日か。プレス難の相が出ているのか。

「ちょっ…」

慌てて腕で身体を支える。手をついた机の上で茶碗や皿ががちゃり、と行儀悪く揺れた。
ユキほどじゃないけど俺よかでかいんだから、普通に重い。小っさ、とこれまた失礼な発言が聞き取れて、非常にむかついた。ハゲと呼ばれて喜ぶ親父が居るかっての。
しかも当たり前だけど、暑いし、汗くさい。あと、胸板が硬くて萎える。
リンカン先輩は緑陽館―――ここから自転車で10分くらいの所にある県立高校のマーチングバンド部に所属している。担当はバトントワリングで、でっかい旗を振り回している、らしい。
今日も今日とて練習に勤しまれたリンカン先輩は、着替えもせず風呂も入らず、俺に抱きついておられるのだ!即刻開放を要求します!

「リンカン先輩、マジで離して下さい!」
「…離してやってください」



- 7 -


[*前] | [次#]
[目次]
[栞]

恋愛不感症・章一覧

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -