隣人は密かに(6)





渡さなければ、特進科はあのことを触れ回るという。
俺の相当頂けない過去。もし、鹿生さんと彼の姉貴とやらが懇意で、悩み相談とばかりに彼女が事細かに話していたら、結構どころか、かなりまずい。
黙っていれば人の噂も、で、いつかは収まるかもしれないけれど、それまでは一体どんな目で周囲に見られるのだろう。
彼の言う『悪戯』なんてのは起こりっこないけど、苛めとか、あるんだろうか。
日学、平和そうだけどなあ。
俺はともかく、ユキや新蒔が巻き込まれたりしたら、困る。ユキは幼なじみだし、ああいう奴だからきっと何があっても変わらない。変わらないで、居てくれる筈だ。

(「……だけど、新蒔はどうだろう」)

仲は良いと思うけど、彼とはこの4月に知り合ったばかりだ。期待みたいな感情を持つのは、自分の感情としてちょっと気持ちが悪い。
新蒔を信じてないとか、そういうことじゃなくって。

友達が苛められて、それに付き合って庇ったり戦ったりする奴って中々居ないし、出来なかったとしても、簡単に責められることじゃない。だって十中八九、次の標的は自分になるのだから。

今のクラスは割と居心地がいいし、ユキや新蒔と馬鹿を言い合ってるのは、時々げんなりするけれど、楽しい。
頑張ってこっちまで来て、日学に入れて純粋に良かったって思う。
斎藤は不感症、というレッテルが貼られたら、新蒔や他のクラスメイトたちとの関係はどう変わってしまうんだろうか。

―――どっちかって言えば、つまはじき、よりも笑い者にされる気がするなあ。う、それはそれで厭だ。


そもそも、この手の強請って、弱みは延々と握られ続けているわけだから、俺が手紙を渡したところで根本的な解決になるのか?ならんよな。
ほら、サスペンス劇場とかであるじゃないですか、写真を見せられてネガもあるぞー、みたいな。結局ネガを取り返さないと駄目なんだけど、一向に出てこなくて殺しちゃう、ってやつ。
―――何つう鬱な想像をしてしまったんだろう。ええと、次!



渡した場合は、俺のミジンコ並のポリシーが若干、傷付く。
告白なんてのは自分で直接当たれ、って思ってるし、大体ひとを脅かして何かさせようという魂胆が気に食わない。物で釣れば言うこときくって思い込んでいる節もあったし。
あとあの上から目線もむかつく。以上!

「………なんか、段々腹立ってきた」

思い出し怒りである。
突き飛ばされた感覚とか、心持ち顎を挙げて上から見下してくる目つき、感情のままに歪んだ顔が再生されると、ふつふつと心が沸いた。
うっかりサボタージュする羽目になった英語とかな。大体、何故に見知らぬ男に、あそこまで言われなくちゃいけないんだ。
指の間に挟んでぺらぺらと振っていた封書で、見目先輩の名前が残像になって、揺れる。
中身を含んでいない薄いところへ爪を立てた。
このまま、左手を手前へ、右手を奥へ力を込めて引けば――――、

こんこん。

「……だれ」
「―――僕。由旗だけど」

立ち上がって手紙をベッドの上へ放る。特に溜めもなく開き戸をスライドさせると、そこには制服姿のユキが立っていた。




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